屋敷伸之六段(当時)の同窓会

将棋世界1993年8月号、屋敷伸之六段(当時)のリレーエッセイ「待ったが許されるならば・・・」より。

 「もしもし、俺だけどわかる」

 先日、こんな電話がきた。名前はMと言うのだが、しばらくは誰からの電話だったのかわからなかった。なぜなら、心あたりがなかったからだ。

 「久しぶりだなあ、もう10年ぐらい経ったかなあ」

 おうおう、やっと思い出した。小学校時代の友人からの電話だった。

 お互いに最近のことをいろいろと話したあと、そいつから同級生のみんなが今なにをしているのかを聞く。さすがに10年も経っているとみんないろいろと変わっていて、驚かされた。

 そんなこんなで話が一段落して、今度どっかで会わないかと言われた。二人で会うのだろうかと思っていたら、もう一人Kという奴が八王子に住んでいるので三人でどっかで飲もうや、という感じになった。

 ただ、三人とも方向がばらばらなので、どこで飲むか難しいと思ったのだが、意外とすんなり横浜に決まり、話はいちおうついた。

 ただ、電話を切ってから急に不安を覚えた。10年ぶりなのでお互いがわかるだろうか。共通の話題がなくて恐怖の沈黙の時が現れるのではないか、など・・・。

 そして、あっというまに会う日がやってきた。

 その日は夕方から会うことになっている。

 4時ごろ電話が来た。

 「今、町田にいるんだけど、どこで待ち合わせしようか」。いよいよである。どこがいいか迷いながらも、横浜そごうの時計のところで待ち合わせた。

 昔なつかしい友人と会うので嬉しいのはもちろんだが、少なからず緊張もしていた。

 横浜へは30分で着いた。待ち合わせの場所へ行ったが、お互いの今の顔はわからない。

 しばらく探して気配がないのでおかしいなと思った。早かったかなと思いながら辺りを見回してると、それらしき二人を発見した。

 こんなときは不思議とお互いの意志が通うもので、向こうもおやっというような顔をしていた。

 「久しぶり、変わったなあ」。みんなの口から同じ言葉が出て、さて飲み屋を探そうということになった。

 それにしても二人ともずいぶん変わったなあと思っていた。

 確かに顔は昔のおもかげが残っているが、メガネをかけているので雰囲気がぜんぜん違う。もっとも、人のことは言えないが。

 さて、飲むところだが、みんな物事にこだわらないので、ごくふつうの居酒屋に入った。

 とりあえずビールを頼んで、Mが口火をきる。

 話題は、やはりみんなのこと。働いている奴、学生をやっている奴、行方不明の奴などなど・・・。

 そして結婚している奴もすでにいるらしい。

 それを聞いたときはちょっとびっくりした。確かにおかしくはないが、まだ21なのにと複雑な思いだった。

 そして、死んだ奴。これはショックだった。そいつとはけんかもよくしたけど仲の良い奴だった。落ち着きはなかったが、明るくおもしろい奴だった。

 高校生のとき、バイクで事故にあったらしい。

 「とにかく、いろいろあったんだよ」

 1杯目のビールは既になくなっている。次に何を頼もうかいろいろ言っているうちに二人がザンギを頼もうと言う。

 「なんだ、そのザンギってのは」

 「お前、ザンギを忘れたのか、ザンギを」

 なんだそりゃ。首をかしげていると、

 「いかんな、魂をこっちに売ってしまったなあ」

 そうはいってもわからないものはわからない。

 「店員に言ってみようか」

 「わからない、わからない」

 唐揚げなんだそうだ。考えて損した。

 そして、相変わらず話はあちこちへ飛ぶ。二人とも大学での生活は忙しいながらも充実しているようだ。

 Mは飲み会やコンパはめんどうだけど楽しいと言う。Kは毎日研究で忙しいと言う。たまに先生と飲むこともあるらしい。そんな二人を一瞬うらやましいなと思った。

 ごくふつうの生活をしているからだ。でも、すぐにそのことを頭から消し去った。道は自分で選んだのだから、後悔すべきではない(しかし、恥ずかしいことを書いている)。

 結局、2時間くらい飲んで、そのあとカラオケをしに行った。カラオケもおもしろかったが、書くスペースが・・・。

 帰りぎわ、

 「ヒマだったら電話くれよな」

 「いつもヒマだから、いつでも電話するよ」と言いながら、横浜駅で別れた。

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この雰囲気がたまらなくいい。

何がどうしたという話ではないが、屋敷伸之六段(当時)らしさに溢れているような感じがする。

なんとも癒される文章だ。

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「ザンギ」は北海道で広く用いられる呼称で「唐揚げ」のことを指すという。

道内には「北海道ザンギ連盟」や「くしろザンギ推進協議会」などがあって、活発な普及活動をしているようだ。

「くしろザンギ推進協議会」によると、中国料理の唐揚げ=炸鶏(ザーギー)に『運(ン)』がつくようにと「ザンギ」と名付けられたと解説されている。

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小学校の同窓会・・・私が20歳の時に一度開かれた。

ちょうど夏休みに入ったタイミングだったので参加することができた。

仙台の一番町だったか国分町にあったシェーキーズが会場。

25人くらい集まったのだと思う。

楽しい会だった。

その時に強く実感したことは、「好みは変わる」ということ。

小学生の頃に一番憧れていた女の子と久々会ったわけだが、あまり感動はなく、小学生の時は特に意識はしていなかった子がとても魅力的に思えたり、という具合。

今となっては、あの一回だけの同窓会がとても懐かしいが、細かいことまでは憶えていない。

当時ブログがあったなら書き残していたのに、と残念に思う。