超強気な行方尚史四段(当時)と冷静な窪田義行四段(当時)

将棋世界1994年6月号、大崎善生編集長(当時)の「第53期順位戦」より。

激戦必至<C級1組>

 丸山、郷田、屋敷、阿部と強い所が揃っている。そこに真田、藤井とイキのいい勢力が加わり、昇級争いは今期も9勝1敗の線を退きそうにない。

 注目の丸山-屋敷戦が初戦に、屋敷-郷田戦が3回戦に組まれている。阿部はと見れば、藤井、真田の若手勢に加え、最終戦は郷田が待ち受けるという試練の鬼クジ。熾烈な星の潰し合いとなりそうだが、そこを突き抜ける者があるかどうか。丸山は初戦さえ切り抜ければ相当に有利な展開となるかもしれない。

 その四強と真田、藤井を一人も引かなかったのが小林宏。富士山遭難のキズもいえ、そろそろこの高い山ももうワンステップ昇りたいところ。昇級候補者が星を潰し合う展開となれば面白い存在となりそうだ。

 一昨年7勝3敗、昨年2勝8敗の所司を大穴にあげておく。理由は簡単、今年は好成績の番だもんね。所司にそれを告げると「しょっしゅねえ~」と本人も張り切っていた。軽い時の所司は強い。

—–

この期の順位戦は、

丸山忠久五段(当時)は初戦(対屋敷戦)に敗れたものの、その後全勝。9勝1敗で昇級。

藤井猛五段(当時)は10勝0敗で昇級。

郷田真隆五段(当時)は8勝2敗で3位。

屋敷伸之六段(当時)は7勝3敗で4位。

阿部隆六段(当時)は7勝3敗で5位。

真田圭一五段(当時)は6勝4敗で11位。

小林宏五段(当時)は5勝5敗で13位。

所司和晴六段(当時)は6勝4敗で12位、降級点を消した。

大崎善生さんの予想がかなり当たっている。

—–

新四段に注目<C級2組>

 今年からフリークラス制が導入され、ベテラン勢や降級点2個組が数人そちらへ転出した。そのため、今年のこのクラスは一気に若年齢化された。若年齢イコール強いというのがこの業界の常識である。表の左側で奮闘を続けている中堅勢にとっても苦しい戦いを余儀なくされそうだ。

 前期頭ハネに泣いた先崎は、中田、長沼、深浦らの昇級候補に加え、北浜、岡崎、窪田と新四段を三人引いた。今年も気を抜けない一年となりそうだ。

 昇級候補の筆頭と目される深浦はやはり4回戦の先崎が勝負所。そこを乗り切れば視野も広がろう。

 小倉、中川の安定勢力も比較的いいくじを引いている。今年は激戦が予想され、上位者は8勝2敗でも昇級に絡んできそうなので、毎年好成績を収めるこの二人は大きなチャンスであろう。

 面白いのは行方。「当然10戦全勝で昇級ですよ」と表を見ながら一言。おまけに「秋頃は竜王戦の七番勝負を戦いながらだから大変だ」「最終戦の頃は棋王戦と重なるなあ」。そんな言葉がポンポン出てくる。と思ったら「大阪の相手が一人しかいない。大阪へ行きたいのに」と子供みたいなことも言う。新四段に上がってからの成績は13勝3敗。強気のナメちゃんに大いに注目して頂きたい。

 行方と話して三時間後。今度は編集部に岡崎が顔を出した。早速表を見せて「何勝できそうか」と聞くと「10勝です」とクールな返事。今年の新人は皆やる気満々である。と、そこにまたまた現れたのが窪田。表を見せ、同じ質問をする。「5勝5敗ですね」が窪田の答え。冷静なやつだ。

 しばらく新四段達と順位戦の話に花が咲いた。彼らは遠足を待つ子供の様に目を輝かせ、開幕日を今か今かと待ちこがれている。毎年、新四段が強いのも成程とうなずける。

 降級争いの方も相当に厳しい戦いが予想される。ベタ負けしそうな人もなく、下手すれば下位の4勝も危ういかもしれない。全員の健闘を期待したい。

—–

先崎学六段(当時)は7勝3敗で8位。

行方尚史四段(当時)は6勝4敗で17位。

岡崎洋四段(当時)は5勝5敗で28位。

窪田義行四段(当時)は8勝2敗で6位。

昇級したのは10勝1敗の久保利明四段(当時)、9勝1敗の三浦弘行四段(当時)、9勝1敗の中川大輔六段(当時)。

深浦康市五段(当時)と佐藤秀司五段(当時)は9勝1敗の頭ハネとなった。

—–

行方尚史四段(当時)は、この時、竜王ランキング戦6組の決勝進出、棋王戦予選の決勝進出が確定していた。

その後、棋王戦では本戦1回戦で敗退したものの、竜王戦は6組で優勝、本戦トーナメントでも勝ち続け、羽生善治四冠との挑戦者決定三番勝負まで進むことになる。

—–

今期の順位戦の対戦組み合わせが決まった。

将棋名人戦・順位戦の組み合わせ決定 6月開幕(朝日新聞)

A級では、1回戦から渡辺明二冠と名人戦の敗者(森内俊之名人か羽生善治三冠)の対決になるということで、今シーズンを占う大きな意味を持つ一戦となりそうだ。