近代将棋1999年12月号、故・池崎和さんの「普段着の棋士たち 関西編」より。
某月某日
関西将棋会館で羽生-谷川のA級順位戦。王位戦コンビの対決で、私が羽生さんの対局を見るのも8月の王位戦以来だ。羽生さんの大阪対局はめったにないことで(年に1回あるかないかだ)、これも相手が谷川さんのときに限られる。
毎日の加古記者の後ろに座って戦型に注目していたら、横歩取りになったから胸が高鳴った。もちろん中座流である。谷川さん(後手番)が誘い、羽生さんが応じてこうなったわけだが、まさかA級順位戦で王位戦の続き(?)を見られるとは思わなかった。二人とも強情だなあ。
横歩取りはプロ棋界ではよく指されているのに、アマ棋界ではとんと見かけない。どこからどう攻めていいのか、急所がわかりにくいからだろう。
先日、関西将棋会館でイギリス人の将棋ファンと会ったので(森信雄六段が引き合わせてくれた)「イギリスで横歩取りは指されていますか」と聞いたら、彼は首を横に降って「横歩取りはキャスリングのない戦法だから」と言っていた。人気があるのは振り飛車で、彼自身は穴熊が大好きとか。アマチュアはいずこも同じだな、と思った。
昼食休憩のとき、控え室で最新棋譜を並べていたら、「これはこれは池崎さん」という声がして、羽生さんが入ってきた。あれ?私は朝、対局室にいたのに気がつかなかったのかな。
羽生さんは三日後に神戸で丸山さんとの王座戦第2局を控えていて、それまで大阪に滞在するという。四冠王が遠征先で”中二日”をどう過ごすか、というのは興味のあるところだが、さすがに私もそこまでは聞けない。
翌日の夜、ちょっとした用事があって関西将棋会館へ。居合わせた奨励会員に「きょう羽生さんが来ませんでした?」ときいたら、「ええ、午後、来てましたよ」とのこと。一人で棋譜を並べていたそうだ。やはり、そうだったのか。
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やはり対局が始まる直前は、精神集中モードに入っていて、周りの光景が目に入らない状態だったのだと思う。
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大阪で二日間、一人で過ごすとしたらどうするだろう。
これはなかなか難しい問題で、結局は映画を観たり、北新地やミナミの繁華街をぶらぶら歩いたり、ディープな所では新世界からジャンジャン横町を歩いてみる、で、ようやく5~6時間というところだろうか。
関西将棋会館へ行って、道場で将棋を指して、1階のイレブンあるいは森信雄四段(当時)と村山聖少年が毎晩のように通った更科食堂で食事をするというコースもある。
しかし、二日間を過ごすということでは、まだ足りない。
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実は、私は大阪へ行った時に一度入りかけて、時間と勇気がなくて断念したことがある場所がある。
それが、最後の真剣師・大田学さんが定宿としていた旅館の隣にある「オーエス劇場」。
いわゆる大衆演劇の劇場で、いろいろな劇団が月替りで公演を行っている。
「オーエス劇場」自体もディープな場所にあるディープな建物なのだが、そこで行われているのが剣劇などのかなりディープな劇。
私の中では、いつかは一度行ってみたいスポットだ。
オーエス劇場観戦記→ちんどん通信社恒例年末興業 新世界オーエス劇場(西方見聞録)