兄弟弟子酒

将棋世界2004年4月号、「棋士たちの真情 深浦康市朝日オープン選手権者」より。聞き手・構成は浅川浩さん。

 私は基本的に仕事人間です。だから、あまりいい父親じゃないかもしれませんね。子供と接するのはエキサイティングなんですよ。常に接していると危険ですね。面白いものには近寄らないようにしています。

 乱れた経験ですか?ありません。自分の内面で処理しようと思えば、できるんです。酔いつぶれて記憶がない、というような経験もありません。自販機を蹴飛ばしたこともありません(笑)。

 ヤケ酒ですか?兄弟子の森下さんと一緒なら、あります。二人とも痛い星を落とした翌日に研究会があったんですが、ろくに研究もしないうちから、「今日は飲もう」ということになって、寿司屋に入って昼間から日本酒を飲んだ。夕方になって、どちらともなく、こんなことではいかんと気づいて、すぐお開きにして…。あ、そうですか、こういうのはヤケ酒とは言わないんですか?でも、そのくらいしかないんです。私は自力を頼む人間なんです。

(以下略)

—–

若かった頃の森下卓九段と深浦康市九段が研究会を途中でやめて昼から夕方まで日本酒を飲んでいたら、十分なヤケ酒になると思うのだが、ヤケ酒の定義は難しいようだ。

—–

長く一緒に暮らしていた女性と別れて、その心痛から胃から血が出て、病院にも行かずにそれまでと変わらずに普通に酒を飲み続ける、というのも広義のヤケ酒になるのだろうが、ヤケ酒は、「これからヤケ酒を飲むんだっ!!」という気合いのもと飲み始めるのが狭義のヤケ酒になるのだと思う。

私の場合は、大学時代に、季節はまさに今頃のことだったような感じがするが、憧れていた女子大生に振られて、雨にも降られて、そして自分の部屋で飲んだサントリーオールドがヤケ酒だった。

酒を飲んでも美味しくも楽しくもないし、気持ちは悪くなるし、エスカルゴが胃の中から出てきたし、もうヤケ酒を飲むのはやめよう、と本当に思ったものだった。

雨に泣いている