近代将棋2003年2月号、スカ太郎さん(椎名龍一さん)の「関東オモシロ日記」より。
いろんな観戦記で書かれているので、ご存知の方も多いと思うのだが、最近、佐藤康光棋聖・王将が対局中に愛飲しているのが「ペリエ」という緑色のびんに入った天然炭酸入りミネラルウォーターである。
佐藤棋聖・王将は対局前に「ペリエ」を8本(これが必ず8本なのである)、かばんの中から「よいしょ」と取り出す。そして対局中には、ずうううぅぅぅとそれを飲み続けるのである。
昔、刑事コロンボシリーズであったと思うのだが、30コマに1つコーラの画像を挿入させた映画のフィリムを見させ、サブリミナル効果でもって喉をかわかせて殺害するというストーリーがあった。それに似ていて佐藤康光が対局中に「ペリエ」をずーっと飲んでいるものだから、どうやらそれを目撃したわれわれ将棋関係者は、サトーリミナル効果でもって次第次第に「ペリエ」を飲んでみたい、という誘惑に駆られ始めていたのである。
実はオイラも、サトーリミナル効果にやられてしまった一人であって、あるときどうしても飲んでみたくてたまらなくなり、1本200円もする高価なミネラルウォーターを買ってしまった。刑事コロンボなら、そこでズドンと殺されてしまう罠にはまった子羊だったのである。
でもって、今回はもう一人の子羊・三浦弘行八段の話を書く。
どうやら、三浦八段もサトーリミナル効果にはまってしまったらしく、対局中、塾生さんに「佐藤さんが飲んでいるのと同じやつ買ってきてください」と注文したのだ。
控え室で三浦八段が「ペリエ」を飲んでいたので、思わず「サトーリミナル効果ですか」と聞いてみたところ「頭が良くなる魔法の水だって聞いたものですから……」と三浦八段は言った。
「まさか、ペリエで頭がよくなるなんてことないでしょう」
「えっ、これ飲んでも頭が良くならないんですか」
「うーん、たぶん」
「なあんだ」
「炭酸が入っているから、カルシウムが溶け出して、骨が弱くなっちゃうかもしれませんよ。オイラなんかビールばかり飲んでいるから骨だけでなく脳みそも溶けだしてますもん」
「ええー、なんだ。飲まないほうがよかった」
「牛乳のほうが、よっぽど頭がよくなりそうな気がしますけどね。骨にも良さそうだし……」
「そうだったのかぁ」
とはいえ、三浦八段を笑ってはいられない。オイラはといえば、緑色のビンを見ただけで喉が渇いてくるし、最近では佐藤康光棋聖・王将をみただけで不思議と喉の渇きを覚えるようになってしまうほどサトーリミナル効果に脳がおかされてしまっているのだ。今後もサトーリミナル効果の被害者は増えそうな予感がするのである。
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三浦弘行八段(当時)の将棋が強くなりそうなものに対するたゆまぬ探究心、そして、三浦八段の素直さが感動的だ。
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「将棋棋士の食事とおやつ」によると、佐藤康光九段は2012年頃から、ペリエよりも微炭酸なサンペレグリノに銘柄を変更しているという。
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私は炭酸飲料やスパークリングワインは好きだが、ビールは苦手。
先日、大井町でバトルロイヤル風間さんと飲みに行った時のこと。
1軒目に入った店は8人も入れば満員になるような風情のある店だったのだが、メニューを見ると酒は生ビールと青汁サワーだけ。
私にとってはどちらも好んで飲みたいとは思わない酒……
10秒考えたあと、究極の選択で、青汁サワーを注文することにした。
飲んでみると、胃の辺りに変な感じを覚えたが、特に飲みづらいということもなく、まあまあ。
それにしても、どれだけ私はビールが苦手なのだろうと考えさせられた日でもあった。