女流棋士焼き肉ツアー

近代将棋2000年3月号、中倉彰子女流2級(当時)の「焼き肉ツアー」より。

出発前のハプニング

 ひょんなことで女流棋士6人旅行が決定した。題して「韓国で焼き肉食べよう!ツアー」。内容は、焼き肉食べて、アカすりして、買い物して、カジノしてとそれぞれ思い思いの行動をして楽しもう!という計画であった。(編集注・食べても食べても太らない自信家メンバーは、中井広恵五段、山田久美二段、高橋和初段、本田小百合初段、中倉彰子2級、宏美1級)

 一行は、12月12日の朝10時出発の飛行機とあって私と宏美と和ちゃんは眠い目をこすりながら空港に向かった。

 その時、携帯が鳴った。

「パスポート忘れた人がいます」

 先に空港についている山田さんの声だ。

「パッッパスポート……?」

いったい誰かというと、今回の旅行を大いに盛り上げてくれた小百合ちゃんであった。まずは波乱の幕開けだった。

 名誉のために説明すると(?)持ってきたことは持ってきたのだが、期限が切れてしまったのと間違えてしまったようなのだ。

 家族の方に持ってきてもらう事になり、間に合うかどうかギリギリ。他のメンバーは先に飛行機に乗ってくださいということなので中井さんを含めた5人は小百合ちゃんの荷物だけを持って乗り込んだ。

「もし乗れなかったらこのカバンだけでも韓国旅行させてあげようか」

「うんうん。キムチ詰めてね」

 私達の心配をよそに飛行機は離陸してしまったノデアル。果たして小百合ちゃんは無事乗ることが出来たのか?その運命やいかに!しばらくすると、スチュワーデスさんからメモが届いた。

「私は前の方に座っています。みなさんご迷惑をおかけしました。いや走った、走った!。フー」という内容でイラスト入り。

 かくして、なんとか無事6人で韓国に出発することができたのだった。

 機内で「30分到着が遅れた事をお詫びいたします」というアナウンスを苦笑いで聞きながら……。

(だれだ、遅らせたのは!)

女性賭博師が勝負、勝負!

 初日の夜はカジノへいざ出陣!

 一番燃えていたのは、負けを恐れない勝負師の和ちゃん。勝つ時ももちろんあるが、負けた時は必ず「授業料をお支払いしました」と冷静なのか熱いのか……。

 宏美もけっこうはまってしまうところがある。チョビチョビだが賭けていって負けていくと「あー。面白いけどおカネが無いよ~」と本当に残念そうに嘆く光景は何度かみたことがある。

 しばらく<スロット>や<大小>で楽しみ、私と小百合ちゃんは喫茶店で休んでいた。宏美は<大小>で一時の夢をみたようだったが、持っていたお金のぎりぎりまで使って戻ってきた。

「ダメだ~。あの時止めておけばよかった。あ~あッー」と嘆いている。

 引き際は難しいものだ。そろそろ帰る時間になっていたので、3人で和ちゃんを待っていた。なかなか戻らないので、きっとすごく勝っているか、それとも負けているのかどちらかだろう、と話をしていたら、やはりというか後者の方であった。

「全部使っちゃったッ」という和ちゃん。

 今日も授業料をお支払いしたのね。と思ったのだ。

気前がいいんだから彰子は!

 惨敗だったが、楽しんだ余韻に浸りながらタクシーで帰ったそのとき、中倉彰子やってしまった……。

 何かやるとは思っていたのですよ実は!。

 3,900ウォンのタクシー代金をなんと太っ腹にも39,000ウォン払ってしまったのだ。10倍のお金を払い、しかも、チップだ!と思いきりよく40,000ウォンも。

 その後、タクシーは猛スピードで帰っていったのは言うまでもない。

 みんなは「カジノで負けたと思えばいいじゃない」「原稿のネタになるんだから必要経費だよ」と言って慰めて(?)くれた。

 次の日はアカすりに、市場での買い物、焼き肉、キムチと食べたりと、大いに韓国を満喫した。詳しくは書ききれないが、内容の濃い、楽しい3日間だった。

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この当時、ソウルで唯一カジノがあったのは「シェラトン・グランデウォーカーヒル」。

ペ・ヨンジュンが出演していた韓流ドラマ「ホテリアー」の撮影場所となったホテルだ。

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私も一度だけソウルへ行ったことがあるが、その時にやはりこのホテルのカジノに行っている。

カジノは初めてだったので、数学的に期待値が最も高いルーレット一本に絞って勝負をした。(ルーレットの期待値は94.7%)

偶数か奇数かだけにチップを賭けて、チマチマとやっているうちに長い時間をかけて少しだけ浮いてきた。

しかし、浮いてくると気持ちが大きくなって、徐々に大胆な賭け方に変わってきて、結局はゼロに。

ヒットを打ったら必ず送りバント、というような面白味のない賭け方が堅実であるのだが、それでは飽きてくる。飽きてきた時にじっと辛抱できるかどうかが、チマチマした賭け方の場合のポイントなのかもしれない。

 

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韓国の焼肉は思ったほど感動しなかったが、クッパには新しい発見があった。

クッパというと日本ではスープの中にご飯が入っているが、韓国のクッパはスープとご飯が別々で出てくる。

個人的には別々の方が美味しく感じられ、それ以来、日本でクッパを頼む際も、ご飯とスープを別々にしてもらっている。

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同じように考えると、ラーメンよりもつけ麺の方が美味しく感じられるという理屈に発展するが、これはケースバイケースとしか言いようがなく、食べ物はなかなか難しいものだと思う。