升田幸三九段の『歌うロマンスタジオ』

将棋世界1971年3月号のコラムより。

升田九段夫妻 ”歌うロマンスタジオ”に登場

 1月28日午後10時のフジテレビ「歌のロマンスタジオ」に升田九段夫妻が登場。

 升田九段の少年時代の思い出談と、当時流行の歌をおりこみ、中ごろに兵役で南洋ボナペ島の戦友たちとバンダの桜の花の色と歌う升田九段の明るく遠くを見るような顔が画面いっぱいにひろがる。

 司会の高峰三枝子さんが「お好きな歌がございますか」と問うと

升田「三橋美智也。土の匂いのする歌がなにがなんでも好きだった」と答え、りんご村からのメロディが流れる。

三枝子「デートしたことは」の問いに一瞬升田九段は照れたようだ。

夫人「京都に数回いきました」

升田「洋画にいったことがありました。私はチョンマゲ物が好きなんですが、”雨に唄えば”というのに気がそろったんでネ」

三枝子「人生観というものは」

升田「熟したいと思っています。熟したまま木にあるうちは将棋を指していたい。木から離れるようになったらやめます。それが早いか、遅いか……」

夫人「うちの人はウソがない。めずらしいです」

升田「女性とは忍耐と教えた母親のように昔ふうな女房です」

 そして二人の立ち姿にスポットライトが当たって幕。

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『歌うロマンスタジオ』は、1970年1月から3月までと1970年10月から1971年3月まで毎週木曜 22時00分 -22時56分にフジテレビ系で放送された歌謡トーク番組。

毎回、1組の夫婦がスペシャルゲストとして登場し、夫婦の馴れ初めなどを語っていたほか、人生の中で感銘を受けた歌や好きな歌を夫婦のどちらかが単独で、あるいはデュエットで歌っていたという。また、数組のゲスト歌手が新曲や懐メロを歌うために登場。

司会は高峰三枝子さん。

石原裕次郎・北原三枝夫妻、勝新太郎・中村玉緒夫妻、林家三平・海老名香葉子夫妻、仲代達矢・宮崎恭子夫妻、長門裕之・南田洋子夫妻なども出演している。

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「バンダの桜の花の色」は、『歩兵の本領』という1911年(明治44年)に発表された軍歌。

 

『リンゴ村から』は、1956年の三橋美智也さんのヒット曲。

『雨に唄えば』は、1952年公開のアメリカのミュージカル映画。

「”雨に唄えば”というのに気がそろったんでネ」という表現がなかなかユニークだ。

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升田幸三九段は番組に出演したこの年度、名人挑戦を決め、4月から名人戦で大山康晴名人と壮絶な戦いを繰り広げる。

升田式石田流が第2局、第3局、第4局、第6局、第7局で登場した名人戦。

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フジテレビでは1968年11月から『夜のヒットスタジオ』が開始されており、『歌うロマンスタジオ』も同じような勢いのタイトルの付け方だったのだろう。

そういえば、現代ではこのような形式の番組がなくなっている。

試験的にやっても面白いかもしれないが、どうなのだろう。