棋士の二大趣味

将棋マガジン1987年3月号、コラム「棋士達の話」より。

  • 囲碁を趣味とする棋士は多いが、人により強弱は天地ほどに差がある。強豪は大山、升田、丸田、米長、二上、芹沢、佐藤庄、河口、真部、土佐らが有名だが、その順位は不明。囲碁会などでは強者同士を当てないのが不文律となっているとか。

  • 強豪達は皆自分が棋界一と思っているそうだが、それぞれ特徴がある。升田九段はとにかく何目でも置かせて打つのが好き。ヒゲをほころばせ「紅葉のような手をしてよう打つ」とか「君の碁はクイ碁だ。打つほど下がる」といいつつもごきげん。

  • 弱い方の代表格が平野六段。ある時にシチョウを逃げる。それを見ていた藤沢朋斎九段、何かあるのかと思ったら隅まで行って取られてしまいあきれたという話が残っている。口の悪い棋士達、平野先生はルールを知らない人より二目は弱い。

  • ある時の碁会、生まれて一度も勝った事のない大島五段と、昨日ルールを覚えたばかりの桐谷五段が対戦。この好取組は見物人の気分を悪くさせるような超凡戦を展開、桐谷三目勝ち。大島一度も勝てないのに理由のある事を証明してしまった。

  • 内藤九段も囲碁は弱い方という。ある碁会所に行ったが、打つ姿勢と手つきは抜群に良い。強豪現われると思ってか、見物人がたかった。しかし打っている内容を見ているうちに周囲には一人もいなくなってしまった。

  • 森安兄弟が囲碁を打っていた。兄正幸五段が白、弟秀光八段が黒。やはり兄に一日の長があるのか、と思ったが何やら盤面の様子と打つ石の雰囲気がおかしい。不思議に思ってよく見直したところ、白の方が井目を置いているようだった。

  • 棋士は麻雀も強い。麻雀連盟が段位を出した時抗議の意か、芹沢九段と勝浦九段が代表としてプロ二人と卓を囲んだ。ルールでもめたというが、打ってみたところ、「勝てはしなかったが、負けてもいない」(勝浦)という成績だったそうだ。

  • 棋士は麻雀の記憶力もよく、半荘1回やると牌のクセを全部覚える、という話があった。ある人がそれを直接たしかめたが、丸田九段答えていわく「そんな事はありません。半荘1回だとせいぜい20~30枚ぐらいでしょう」この数多い?少ない?

  • 加藤博二九段の麻雀も伝説的で、史上最強といううわさがある。それによると盲牌ではなく伏せ牌を卓上で軽くこするとその音で何かが分かったそうだ。本人に聞いたが笑って答えなかったという。でも否定はしなかったわけですよね。本当かな。

  • 徹夜麻雀で有名だったのは故・北村秀治郎八段。関西本部の宿直と時は相手構わずよく打っていた。そして1日ぐらいではむしろ不満で、大体3日目ぐらいになってようやく興が乗ったという。でも強かったという話が残っていないのが愛嬌か。

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「囲碁会などでは強者同士を当てないのが不文律となっているとか」

平穏な日常にわざわざ争いの種を蒔く必要もなく、これは長年の経験によって培われたノウハウなのだと思う。

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平野広吉七段は所司和晴七段の師匠で、渡辺明棋王、松尾歩八段、宮田敦史六段、石田直裕五段、石井健太郎五段、近藤誠也五段、大橋貴洸四段、伊奈川愛菓女流初段、渡辺弥生女流初段の大師匠にあたる。

シチョウとは、囲碁で相手の石に連続してアタリをかけ続けることで、相手の石が逃げたとしても最後には全部取ってしまう形。

シチョウになってしまうと、その中にある石は全て取られることが確定してしまっているわけで、更にその中に石を置くと、わざわざ敵に取られる石を自ら増やすことになる。

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丸田祐三九段は、麻雀牌の竹の目の模様やキズなどの牌のクセを半荘をやっているうちに覚えてしまうという有名な話がある。

覚えようと思ってそうなっているのではなく、自然とそうなっているので、本気でその場の牌のクセを覚えるつもりになったら、かなり凄いことになっていただろう。

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加藤博二九段の伏せ牌を卓上で軽くこするとその音で何かが分かるという話にも驚く。

台との摩擦というか引っかかり具合ではなく音なのだから奥が深い。

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北村秀治郎八段と角田三男八段は阿倍野時代の関西将棋会館の主のような存在だった。

この二人はとにかく麻雀が大好き。

将棋会館今昔