近代将棋1997年6月号、中井広恵女流五段(当時)の「棋士たちのトレンディドラマ」より。
先日、中原先生とお仕事で御一緒した時に伺ったお話。
棋士は、対局や地方のお仕事等で帰宅が夜中になることも多々あるが、家に着く頃にちょうどお腹がすいてくるという話題になった。すると、中原先生。
「仕事で遅くなった時は、たとえ何時になっても起こして食事を作ってもらいますよ。もちろん、遊んできた時はダメですけど仕事をしてきたんだから、当然でしょ」
その堂々とした態度に、隣にいた島先生と私は『さすが、中原先生』と感心しきり。
順位戦の日などは、感想戦を終えて家に着くと、2時、3時になることもある。一番眠りの深い時に、だんな様の為に起きて夜食を作って差し上げるというのは、まさしく妻の鑑。
でも、そのお話を伺いながら、島先生の奥様の事を思い出した。何度もお目にかかっているが、綺麗で、お料理が上手で、理想の女性とも言える人。
もしやと思い、尋ねてみた。
「もしかして、島先生の奥様は、島先生が帰ってらっしゃるのを、ずっと起きて待ってらっしゃるんじゃないですか?」
すると、
「中原先生のお宅はお子さんがいらっしゃるから、早く休まないと朝が大変でしょうけど、うちは二人だけですから」
と兄弟子をたてながら、やはり平然とおっしゃる。
こういう素晴らしい奥様達のお話を伺うと穴があったら入りたくなってしまう。
最近は10時になると、目がトロトロしてくるし、一旦寝ると地震がおこっても起きない私。
しかも、たとえ起きて会話をしても、次の日には全く覚えていないのだから、主人も呆れている。
羽生夫人も、若いのになかなかできた人だ。お世話になった方には、その日のうちに礼状を書いて出し、次の日には届いているというぐらいに礼をつくす。
これを聞く限り、良妻というのは年齢に関係なしというのがよくわかる。
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対局が終わった後に飲みに行ったりすることなどもあるわけなので、食事の用意をしてほしいのか、しなくて良いのかを奥様に知らせなくてはいけないはずだ。その場合、
- デフォルトは食事を作ってもらう。真っ直ぐ家に帰らない時だけ「食事はいらない」と電話をする。
- デフォルトは食事を作らない。真っ直ぐ家に帰る時だけ「食事を用意して」と電話をする。
の2パターンのどちらかになる。
どちらにしても、その電話の連絡も深夜近くになるのだから、奥様もなかなか大変だ。
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中井広恵女流六段も、別の形で棋士の妻として活躍していた。