村山聖五段(当時)の振り飛車講座(2)

将棋マガジン1991年9月号、村山聖五段(当時)の連載講座「ダイナミック振り飛車戦法」より。

 最近少し忙しくなってきました。外に行って何かする時間が増え、本を読んだりCDを聴いたりする時間が減りました。

 やはり研究会をやり始めたせいみたいです。

 対局の次の日や前の日になると、しちめんどくさいのですが、対局がない時は完全に対局代わりです。

 研究会といっても1分将棋で延々やるだけで、何を研究しているのかよく解りません。

 まあ、損はしないだろうという感じです。

 今までが暇だったから、忙しく感じるだけかもしれません。

 まあ忙しいといっても会社員の方と比べると天と地程差があります。

 僕の場合、週に3回用事があると結構疲れます。

 疲れやすい体質なのかもしれません。

 これから段々と暑くなるので、体調を崩す事のないよう十分気を付けたいと思います。

 健康が一番ですから。

 

 今月号は居飛車穴熊に対しての指し方を解説したいと思います。

初手からの指し手
▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△3二銀▲5六歩△4二飛▲6八玉△6二玉▲7八玉△7二玉▲7七角△3三角(基本図)

村山13

 5筋と突かずに穴熊にする指し方もありますが、大体は基本図のように進めます。

 △3三角と上がるところで△8二玉と囲いを急ぐ手が自然に映りますが、それは▲2五歩△3三角▲6八角△4五歩▲8八銀とされ、次の▲2四歩△同歩▲同角が受けにくく、先手不利を招きます。

 基本図までの手順は必然です。

基本図以下の指し手
▲8八玉△8二玉▲9八香△4三銀▲9九玉(1図)

村山14

 1図から、後手には色々な指し手があります。

 じっくり指すのが好きな人は△5二金左▲5七銀△7二銀▲8八銀△6四歩▲7九金△5四歩▲2五歩△7四歩▲6六銀△6三金▲6八角△2二飛(参考図)と、こんな風に組んで下さい。

村山15

 参考図は互角です。

 以下の指し方は、△9四歩~△8四歩から銀冠にするか、△7三桂~△6五歩としての△4二角あるいは△4五歩が良いと思います。

 勿論、この手順も有力ですが、ダイナミック四間飛車としては1図で△4五歩と突きたいところです。

1図以下の指し手
△4五歩▲3三角成△同桂▲2五歩△3二金▲5七銀△7二銀▲8八銀△3五歩▲7九金△5二銀(変化1図)

村山16

 変化1図の局面は優劣不明といえますが、後手には△4四飛から△3四飛と形良く組む手順がある分だけ模様が良さそうです。

 そうされる前に先手が▲2四歩△同歩▲同飛と動くのは△4一飛(▲2三角には△2一飛の狙い)と引いて、2筋からの逆襲を見せます。

 角交換をしてしまうと穴熊の方がバランスが悪く動きづらいと思います。

 そこで△4五歩には▲6六歩と角交換を嫌うでしょう。

1図以下の指し手
△4五歩▲6六歩△3五歩▲8八銀△7二銀▲7九金△3二金▲5七銀△5二銀▲2五歩△6四歩▲5八金△4四飛▲6八金右△3四飛(2図)

 ▲6六歩に△5二金左として、△4四銀または△5四銀と指すのも一局です。

 手順中、△4四飛に▲6五歩は△3四飛▲3三角成△同桂として大丈夫。角交換は後手の方が得と、変化1図のところで解説した通りです。

村山17

 2図は、石田流の形によって先手の2九桂に働きがなく、飛車の働きも後手がまさっています。

「振り飛車の基本は石田流にありといっても過言ではなく、石田流になれば振り飛車は一応の成功をおさめたと言えます」

 よって2図は振り飛車良しです。

 先手が後手の石田流を嫌って▲9九玉ではなく、▲2五歩と突く手があります。

基本図以下の指し手
▲8八玉△8二玉▲9八香△4三銀▲2五歩△2二飛(変化2図)

村山18

 ▲2五歩に△4五歩と突くと、今度は▲3三角成△同桂▲2四歩△同歩▲同飛で悪くなります。

 また△3二金と上がるのは、▲9九玉ならば△4五歩と突いて振り飛車が指せそうですが、▲5七銀と上がられて△4五歩に▲6六銀とされると余り自信がありません。

 ▲2五歩に対して、△9二香や△7二銀と指しても一局ですが、△2二飛がこの手に反発する指し方です。

 変化2図で先手が▲9九玉ならば△3二金と上がり、次に△2四歩と逆襲に出るのが狙いで、先手陣の不備をつきます。

 これは後手指せます。この順があるので居飛車穴熊側はなかなか▲2五歩と突かないのです。

 向かい飛車の変化は書くとキリがないので置いときますが、後手はなかなか△7二銀と形を決めない方が良いでしょう。▲8六角と出られた時に少し受けにくいからです。

 変化2図以下は多分▲7八銀と上がり、一局になるでしょう。

 戻って、基本図からの手順中△4三銀では、すぐに△4五歩と指す手もあります。

村山13

基本図以下の指し手
▲8八玉△8二玉▲9八香△4五歩▲3三角成△同銀▲5七銀△3五歩▲2五歩△7二銀▲7八銀(3図)

 この局面は互角だと思います。

 手順中△3五歩では△4四銀と出る手もあります。

村山19

 3図、先手の9八香は少し違和感がありますが、とがめる手は難しそうです。

 3図以降は△5二金左から△6四歩。あるいは△3二金から△4四飛~△3四飛です。

 振り飛車としては▲9九玉と穴熊にするのを見て△4五歩と飛車先を伸ばしたいのですが、居飛車側はなかなか▲9九玉と入ってくれません。

 穴熊にすると角交換しにくくなるからです。

 よって、3図ぐらいの進展が、妥当な線だと思います。

 では、実戦譜を紹介しますので参考にして下さい。

(先)浦野真彦六段-小林健二八段戦。

 4図は講座にとてもよく似た局面です。

村山20

4図以下の指し手
△4五歩▲6六歩△3五歩▲9九玉△4四飛▲5八金右△3四飛▲8八銀△4三銀(5図)

 先手は▲6六歩と角交換を拒否しました。△3五歩▲9九玉に△4四飛と浮きます。

 先手がここで▲6五歩と突いても△7四飛と回り、▲3三角成△同銀で大丈夫だという読みだと思います。

 先手は▲5八金右と自重しました。

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5図以下の指し手
▲6八金寄△3二金▲7九金△6四歩▲2五歩△3六歩▲同歩△同飛▲3七歩△3四飛▲7八金寄(6図)

 先手は金を玉側に寄せてドンドン固めます。

 後手は△5二金左とする手も当然考えられるのですが、講座通り△3二金と上がりました。

 こう指せば角交換した時▲2二角と打たれずに済むし、飛車交換になった時に△3一歩あるいは△4一歩と打つ手があります。

 そして▲2五歩に△3六歩と一歩切っておきます。▲7八金寄と指さず▲4六歩なら△3六歩▲同歩△4六歩で大丈夫です。

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6図以下の指し手
△9四歩▲9六歩△5二銀▲6八角△4三金▲4六歩△6五歩▲同歩△5四金(7図)

 △9四歩▲9六歩の交換をした後△5二銀と引かれました。

 それに対し先手は▲6八角と引いて▲4六歩を狙います。

 ここで△4三金と上がり▲4六歩に△6五歩が鋭い一手です。後から突いたのでは間に合わないからです。

 ▲6五同歩に△5四金の局面が7図、振り飛車に不満はありません。3三角が遠く玉を睨み、△3八歩をいつでも利かせる事ができます。

 実戦も振り飛車が快勝しています。

村山23

 今月の講座はこれで終わりです。いつのまにか前回よりも難しい内容になってしまったような気がします。僕は最近居飛車穴熊にする事が少なくなったのですが、奨励会当時は絶対に穴熊にしていました。

 でも今はあの頃と違い、振り飛車に多くの対策が出来ました。

 居飛車穴熊の勝率はこれから低くなっていくと思います。

 ここまで読んで下さってありがとうございました。

 また来月会いましょう。

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石田流が大好きな私にとって、村山聖五段(当時)が「振り飛車の基本は石田流にありといっても過言ではなく、石田流になれば振り飛車は一応の成功をおさめたと言えます」と書いてくれているのは、とても嬉しい。

我が意を得たり。24年前の言葉とはいえ、中学生の頃から石田流を好きだったのが報われたような気持ちになる。

もっとも、石田流本組に組むことができれば一応の成功をおさめたと安心し、飛車を成り込めれば「これが石田流の醍醐味だ」と大満足してしまい、その達成感から終盤に気合が入らなくなり逆転され続ける、というのが私の昔からの将棋の傾向だが、これはこれで仕方がないと思っている。