加藤一二三少年と夏みかん

将棋世界2001年4月号、河口俊彦七段(当時)の「新・対局日誌」より。

 加藤一二三九段はさっきから秒読みに追われている。△4二歩と受けるとき1分使いここから1分将棋になった。

 対して島八段は30分以上残している。読み筋をたしかめるように4分考え、▲2三飛成と突っ込んだ。アッという間に詰むや詰まざるやの局面である。

 私は思わず伸び上がって向こう側の加藤の駒台を見た。そこには角金銀がたくさんある。さらに横には、お盆に夏みかんが七つ、円く並べてあった。

 フト、若い頃に読んだフランス小説の一場面が浮かんだ。

 戦線の兵士が、砲弾を避けて地面に伏せたとき、一瞬土の香と共に故郷の故郷の少年時代を思い出す。

 その連想から私も少年時代の加藤六段を思い出していた。おそらく、京都から出て来て、東京の下宿先を探していたのではなかったか。東中野の将棋会館に数日ごろごろしていたことがあった。

 私も遊びにいっていて、退屈だからと加藤少年と碁を打った。それはよいが、長いのでうんざりした。一手一手に考えるのはまだしも、夏みかんを次から次へとほおばるのである。四つか五つくらい食べただろう。こちらの口の中が酸っぱくなったものだった。

(以下略)

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夏みかんは、皮をむくのに一苦労し、実の部分を食べるのにも結構手間取る果物。少なくとも片手では食べることができない。将棋や囲碁の対局時には不向きな食べ物と言えるだろう。

房ごと食べれば面倒な手間はなくなるが、それで美味しいかどうかは甚だ疑問だ。

しかし、少年時代とはいえ、食に対してダイナミックな加藤一二三九段。房ごと食べていた可能性も否定はできないと思う。

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その頃の加藤一二三少年。

将棋世界2001年5月号、田丸昇八段(当時)の「セピア色の棋士たち 61歳のA級棋士・加藤一二三九段の若き日の対局姿とある珍しい光景」より。写真は清水孝晏さん撮影。

上の写真は加藤一二三九段の高校生時代の対局姿。

下の写真は1958年春、加藤一二三九段が八段(順位戦A級)に昇級することが決まった少し後のもの。高校を卒業するかしないかの頃になる。

18歳のA級棋士。こうやって見ると、あらためて物凄い快挙だったということが実感できる。

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今日は竜王戦ランキング戦6組、加藤一二三九段-藤井聡太四段戦が行われる。(ニコニコ生放送、将棋プレミアムで生中継)

76歳と14歳の対決。62歳の年の差となるが、試しに加藤一二三九段の62歳年上の棋士を探してみると、木見金治郎九段(大野源一九段、升田幸三実力制第四代名人、大山康晴十五世名人などの師匠)。

木見金治郎-加藤一二三戦の組み合わせなど時代があまりにも違うので想像をしたこともないほどだが、今日の勝負はそれほど凄いということだ。

 

 

「加藤一二三少年と夏みかん」への2件のフィードバック

  1. 年明けの対局にしていれば63歳差と記録が増えたのにと、少し残念です。

    1. Guten Tagさん

      それは新しい視点ですね。たしかに惜しいです。

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