仏の感想戦・鬼の感想戦

将棋世界2001年9月号、神崎健二七段(当時)の「本日も熱戦 関西将棋」より。

 桐山は久保を破った星に続いて2連勝の好スタート。

 感想戦の会話も、若手どうしの感想戦とは一味も二味も違う。

桐山「これは自信がないです」

中原「自信がないと言われても私も自信がない」とか、

桐山「ゴシゴシ行く一手!」

中原「ゴシゴシか…」

桐山「ゴシゴシゴシゴシっと」

というふうに、波長の合った会話の感想戦は続く…。

 横では阿部隆七段対田中寅彦九段戦。

(中略)

 先ほどの場面から約1時間後に阿部勝ち。感想戦の最中。盤面は8図。

阿部「△5五銀見てもうやめて帰ろうかなと思いました」

田中「それならばやめて帰ってくれなくちゃ困るよ」

 会心の指しまわしから、以下の信じられない失速にぼやく田中。

8図以下の指し手
▲5五同金△同歩▲4五歩△6五桂(9図)

 このあともいろいろとこうすれば良かったという場面はあったが、この9図の△6五桂のかわりに△3三銀と壁銀をひとまず直しておけば盤石で田中良し。

「それならばほんとうにやめて(投了して)帰ってますね」と阿部も同意。

(以下略)

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将棋世界2001年12月号、河口俊彦七段(当時)の「新・対局日誌」より。

 阿部七段はおもしろいところがあって、勝ったときと負けたときとでは、感想戦での口調がまるで違う。勝ったときは、日本一の善人になったみたいに、相手の言い分にうなずき、私がわるうございました、となる。その代わり、よい将棋を負けたりしたら大変だ。ありとあらゆる手に呆れてみせる。具体的な言葉を今は思い出せないのが残念。今度はメモを取っておこう。

(以下略)

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阿部隆八段の感想戦は面白い。

河口俊彦七段(当時)は「その代わり、よい将棋を負けたりしたら大変だ。ありとあらゆる手に呆れてみせる。具体的な言葉を今は思い出せないのが残念。今度はメモを取っておこう」と書いているが、この3年近く前の「新・対局日誌」で阿部隆七段(当時)の負けた時の感想戦の様子が見事に描かれている。

阿部隆八段の感想戦

故・池崎和記さんや鹿野圭生女流初段(当時)の記事でも、阿部隆八段の感想戦の時の雰囲気を知ることができる。

阿部隆八段と畠山鎮七段の本音トーク

微笑ましい兄弟弟子

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とはいえ、阿部隆八段は2008年に「最近はおとなしい感想戦を心掛けています」と話している。

後藤元気さんの第33期棋王戦本戦▲森下卓九段-△阿部隆八段戦観戦記(お仕事ブログ)

この傾向が続いているのだとしたら、将棋界の名所が一つなくなったような気持ちになってしまうので、また復活をさせてほしいと個人的には思う。

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中原誠十六世名人-桐山清澄九段戦も燻し銀の感想戦。

この二人は歳が同じで四段になったのも半年違い。