将棋世界2004年6月号、島井咲緒里女流初段(当時)の公文杯争奪第29回小学生将棋名人戦『こどもの頃の気持ち』より。
第29回小学生将棋名人戦の決勝大会が、4月4日に渋谷のNHK放送センターで行われました。今回私は聞き手としてその模様を間近で見る事が出来ました。拙い文章ではありますが、お付き合いいただければと思います。
来年で30回という節目を迎えるこの小学生名人戦。歴代の優勝者、準優勝者の中からもたくさんの棋士が輩出されています。今回の解説者である久保利明八段も、かつてこのNHKのスタジオまで勝ち上がって来ましたが、残念ながらその年の優勝者である鈴木大介八段に敗れてしまったという事です。
(中略)
この小学生名人戦は、プロ棋士への一つの登竜門となっています。
今年は総参加人数が1,664人と、全国からたくさんの参加がありました。各都道府県で予選があり、代表選手が一人選ばれます。そして、東日本大会、西日本大会の二つに分かれ、それぞれ勝ち進んだ上位二人が、この決勝大会の場に臨んでいます。
ちなみに私も、2回ほど参加した経験があります。当時はまだ地区予選がなく、高知からはるばる上京しました。残念ながら2回とも予選通過ならず。まだ二段くらいの棋力だったので、当然と言えばそうですね。
(中略)
さて、今年は女の子が一人勝ち上がってきました。女性のベスト4進出は中井広恵女流二冠以来、23年振り。現在研修会に通っているという東日本代表の伊藤沙恵ちゃんです。女の子という事で、やはり周囲の注目は大きくプレッシャーもあったとのこと。その中でここまで勝ち上がったのは大変立派だと思います。
準決勝第1局は伊藤さんと、4年生である佐々木勇気君の対戦となりましたが、二人は同じ石田先生(和雄九段)の道場に通う仲間だそうです。この日は二人の応援に、石田先生も駆け付けてらっしゃいました。私の知人にも、石田先生の道場出身の方が何人かいますが、みな先生を大変尊敬し応援しており、普及、指導に熱心な素晴らしい先生だと思います。準決勝で二人の対戦となり、ちょっと複雑な胸中だったのではなかったでしょうか。
(中略)
▲6一銀不成の瞬間が詰めろではない為、佐々木君が寄せ切り決勝へ駒を進める事になりました。残念ながら敗れてしまった伊藤さん。スタジオで声を押し殺して泣いている後ろ姿に、私も胸がいっぱいになりました。今後も周囲の期待やプレッシャーに負けず頑張って下さいね。
続いて準決勝2局は、菅井君の中飛車に寺尾君の居飛車。小学生というと非常に早指しというイメージですが、今年は皆さん非常にゆったりと、そして手つきも良く小学生とは思えないとても大人びた印象を受けました。
(中略)
▲4九歩も受けの手筋で、菅井君がしっかりと寄せ切り、念願の決勝進出です。
菅井君は昨年に続き、2年連続の決勝大会。
(中略)
いよいよ決勝戦です。昨年の雪辱をはらしたい菅井君、次は四間飛車で臨みます。キュッと唇を引き締め、集中している表情です。先手の佐々木君、石田先生も見守る中、本日二度目の右四間で対抗します。角、銀、桂と交換し合って、△5五角と打ったのが3図。
3図以下の指し手
▲4四歩△同飛▲同飛△同角▲6六桂△4九飛▲4一飛(途中4図)次の▲4四歩が「両取り逃げるべからず」の格言に沿った好手。次の▲4三銀が厳しい狙いです。△同飛では△同角の方が優っていたようです。
途中4図以下の指し手
△6五桂▲5九金寄△7七銀▲同桂△同桂成▲6九玉(途中5図)△6五桂から△7七銀の攻めに、▲同桂と取ってから▲6九玉が、勝ちを見きった強い一手。▲7七同玉△6六角▲同歩△4一飛成でも先手が良いが、▲6九玉で飛車が逃げれば▲6二銀がすこぶる厳しい。
途中5図以下の指し手
△5九飛成▲同玉△2六角▲4八歩△4七歩▲6二銀△4八歩成▲同金△4七桂▲5八玉(投了図)まで、61手で佐々木君の勝ち本譜も▲6二銀が実現し、佐々木君の優勝が決まりました。
4年生での優勝は二人目という快挙。現在は自宅から30分かけて、週5~6日柏の道場に通っているようです。マラソンやサッカーなど、スポーツも大好きな佐々木君。まだ将来の事は考えてなさそうですが、これからも将棋を続けていって欲しいなと思います。優勝おめでとうございました。
残念ながら準優勝の菅井君、そして3位の伊藤さん、寺尾君の三人も、熱戦お疲れ様でした。どの将棋も十分に良く指せていて、驚きました。一生懸命盤に向かっている姿はとても素晴らしかったです。今後も頑張って下さいね。「棋士になりたい」。そう言った時の気持ちを、忘れないでいて欲しいなと思います。私も一日、感情の素直なそしてひたむきな子供達と接する事ができ、大変嬉しく思いました。子供の頃の気持ちを思い出し、初心を忘れず頑張りたいと思います。どうもありがとうございました。
(3枚とも将棋世界2004年6月号掲載の写真の一部)
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佐々木勇気少年の小学4年での小学生将棋名人戦優勝は、1994年の渡辺明少年に続く二人目の記録。
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今週の日曜日、佐々木勇気五段が藤井聡太四段の30連勝を阻み、菅井竜也七段が明日からの王位戦の挑戦者、と考えると、とても感慨深い気持ちになってくる。
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この年の小学生将棋名人戦は凄くて、
東日本大会に三枚堂達也少年(千葉)、永瀬拓矢少年(神奈川)、西日本大会に斎藤慎太郎少年(大阪)、佐々木大地少年(長崎)が出場している。
この年代の層が厚いということは、非常に頼もしいことだと思う。