将棋世界2003年2月号、旬の棋士の熱闘自戦記【第19回】神谷広志七段(当時)の「6度目の正直」より。
最初にお断りしておくが、今月あるいは今年から当欄の表題が「とうの立った棋士の自戦記」と変わった事実はない。
また旬という字の意味が180度変わったということも当然ながらない。まあ編集部が何人かの棋士に声をかけて全て断られたということはあるかもしれないが、そんなの俺の知ったことではない。
(中略)
勝った方が棋聖リーグに入れるというこの一局。森下八段とは過去5戦して5敗。しかも優勢になったことさえ?というくらい一方的にカモにされている。
大事な将棋を前にこの対戦成績では気が滅入ってしまうのでは?と思われる読者もいるかもしれないがこれは全く逆。
俺の経験ではこちらが対戦成績でかなりリードしている相手の方が「今度も負けられない」とガチガチになってしまうことが多い。本局の場合も「負けて元元」とは少し違うと思うけれど、かなり気楽な精神状態で盤の前に座ることができた。
お気楽ついでというか気楽+気まぐれという感じで、ほとんど指したことのない3手目▲7八金を選択。対して△3四歩からのウソ矢倉模様はやや意外だった。
(中略)
10年くらい前だったと記憶しているがある日突然、自分は序盤のセンスがないのでは?と気づいた。
それまではまあ人並みには序盤の研究をして、自分なりに工夫はしていたつもりだったのだが、その自分なりの工夫というのがかなりの確率で裏目に出るのだ。
また、序盤の研究というのが「楽に勝つための研究」になっていることが非常に多いということも気づいた。
いろいろ考えた末、序盤巧者を目指すのはやめ、日頃将棋盤に向かうのも詰将棋を解いたりすることが多くなった。
これの是非はいまだにわからないが、年をとってくるとそういうタイプが増えるのではないかという気はする。
(以下略)
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嬉しくなるほど神谷広志八段らしい文章。
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神谷広志八段の『禁断のオッサン流振り飛車破り』(マイナビ出版)が、今回の将棋ペンクラブ大賞技術部門大賞となった。
マイナビ出版の新刊案内にもある通り、この著作も神谷八段らしい文章が随所に出てくる。
私は自分のことをオッサンとは思っていないが、読んでいてとても楽しくなれる本だ。
ただし、願わくは、振り飛車党である私と対戦する人が、この本を読んでいないことを祈るのみ。
→新刊案内「禁断のオッサン流振り飛車破り」 ~いにしえの戦法、鳥刺しを学ぶ~(マイナビ出版将棋情報局書籍編集部ブログ)