今週月曜日の記事「観戦記者の深刻な悩み」で、
(NHK杯戦の)対局前の控え室で、何もしゃべっていない時でも動作に動きがあって面白いのが、三浦弘行九段と行方尚史八段と山崎隆之八段。
と書いたが、これだけでは説明不足となってしまうので、事例をもとに書いてみたい。
今日は三浦弘行九段編。
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私が書いた観戦記、NHK将棋講座2012年3月号、第61回NHK杯将棋トーナメント3回戦 畠山鎮七段-三浦弘行八段戦「引くに引けない将棋」より。
対局前の控え室はにぎやかだった。畠山は解説の山崎と、関西でこれから行うイベントの打ち合わせをしている。
聞き手の矢内と読み上げの貞升は後ろの席で、廊下ですれ違った女性タレントの話題。
三浦は、対局に備えて目薬をさしていた。目にしみるのか、目薬をさすたびに、熱い温泉に入った瞬間のような堪える表情を、左目と右目で2回ずつ繰り返した。自らに苦行を与えるかのような三浦の様子。このときすでに、頭の中には本局の作戦が描かれていた。
(以下略)
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畠山鎮七段と山崎隆之七段(当時)は控え室の入口に近い席で二人並んで、関西でこれから行うイベントの打ち合わせをしていた。雑談ではなく実務的な打ち合わせで、畠山七段がいろいろと新しいアイデアを出していた。
矢内理絵子女流四段(当時)と貞升南女流1級(当時)が話題にしていた女優が誰だったのか、今となっては思い出せない。「あんなに綺麗だなんて…」と二人で感激しながら話をしていた。
三浦弘行八段(当時)は、畠山七段、山崎七段とは反対側の中央の席でじっと座っている。
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しばらくすると、三浦八段は目薬を取り出し、左目に目薬をさした。
すると、三浦八段は、非常に熱い温泉に入った瞬間のような、あるいはご存知の方は少ないかもしれないが、プロレスラーのラッシャー木村が相手の技を正面から受けて耐え続けている時のような、痛みをギリギリの線で耐えるような苦悶の表情をした。
10秒くらい、その表情は変わらなかったと思う。
対局中の三浦八段はほとんど表情を変えることがないので、非常に新鮮に感じられた。
そして、三浦八段は左目にもう一度目薬をさした。
先ほどと同じように、苦悶の表情が10秒ほど続いた。
畠山七段、山崎七段、矢内女流四段、貞升女流1級はそれぞれ会話をしていたので、三浦八段のこの様子は見ていない。
途中からこの部屋に入ってきた人が三浦八段を見たとしたら、何事が起きたのだろうとビックリするだろう。
続いて三浦八段は右目に目薬をさす。
やはり、三浦八段は、右目の一度目の時も二度目の時も、苦悶の表情を10秒ずつ。
4回とも同じ表情を繰り返す三浦八段に真面目さと誠実さを感じるとともに、痛さを感じたなら目薬を手加減すれば良いのにそのまま目薬をさし続けるその姿に、ストイックな三浦八段のこと、自らに苦行を課しているのかもしれない、とも思った。
また、学校の休み時間のような賑やかな控え室の中で、一人だけ苦悶している三浦八段が、とても可笑しく感じられた。
後に、三浦九段は目が乾きやすいこと、目が乾いている時の目薬は痛く感じることを知った。
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私が書いた観戦記、NHK将棋講座2012年3月号、第61回NHK杯将棋トーナメント3回戦 畠山鎮七段-三浦弘行八段戦「引くに引けない将棋」より。
三浦の力戦策がきっかけとなり、お互いが一歩も引かない直線的でスリルのある面白い将棋となった。
三浦は「皆さんが見ていて面白い将棋を指せたこと、それだけが救いです。△3三桂~△2二歩と指していればもっと白熱した戦いになったのに、残念で申し訳ないです」と語っている。
(以下略)
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この対局は、斬り合いの面白い将棋だったが、三浦八段が敗れた。
最後の談話は、後日取材の際に、ファンへ向けての一言として聞いたこと。
ファン思いな三浦九段の人柄が非常によく出ている言葉だと思う。