執念のぶつかりあう凄絶な一戦

将棋マガジン1984年11月号、吐苦迷棋坊さんの「第43期名人戦挑戦者決定リーグ戦」より。

 今、棋界で執念という言葉がぴったりあてはまる棋士とは誰か。筆者は、田中(寅)八段と森八段の名がすぐに浮かぶ。この二人の勝負に対する姿勢はすさまじい。傍らで見てると恐ろしいほどである。第二ラウンドにその二人の対戦が行なわれた。どうなることやら。

 1図は、森が△3八角と打ったところ。

 飛車銀取りで困ったのではないかと思われたが、田中は▲5三とという力強い手を用意していた。すると今度は森が△6二金打ちとおしげもなく金を使う。小生にはこの辺の優劣はわからないがかなり強情な指し手の応酬だと思う。その手順を見ていただきたい。1図以降、▲5三と△6二金打▲2六金△3四飛▲3九飛△6五角成(2図)。

 ▲5三とに対し△4九角成と飛車を取るのは、▲4四角でダメなのはわかるが△6二金打ちとはもったいない気もする。そこで、方向を変え▲2六金。飛車を逃げないこの辺の指し回しには力強さもさることながら男の意地を感じる。それにしてもこの応酬は必然なのだろうか……。だとしたらすごい。

 2図、田中の指した手は▲6三と。この将棋の棋譜を並べていた者の大半が、▲6二と△同金で進めてしまう為、後が並ばなくなってしまう。ある棋士は、▲6三とと書いてある所を記録係のミスを見つけたと言ったと聞く。指し手の良しあしは何とも言えないが、この場合は金を取れば、▲3五金で森に金を持ち駒にされる。歩ならば、▲3五歩で歩が加わるだけですむ。このように見てほしい。難しいことをするもんだ。そして、3図となる。

 森の指した手は、△3八歩。△3九とで飛車はすぐ取れるが、それではと金がそっぽにいってしまう。故に、もう一手かけても4八のと金が大きいと、見ている訳だ。

 先程の▲6三とといい、この△3八歩、見せてくれますねえ。豪快さで売っているこの二人、本当はこのような細かいところに強さがあるんですよお。少しほめすぎたか!

 3図以下を専門的にみれば、森がだいぶ良い。どうしてか。△3八歩は最善手ではなかったからである。では、最善手とは何か。常に相手にいやがられる手のことだと私は思っている。

 そして4図。

 田中は▲3二飛と指し続ける。私は思う。この手自体、非難をあびるかもしれない。けれど勝負を捨てないこの執念。見ならいたい。

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名人戦挑戦者決定リーグ戦は、現在のA級順位戦。

一手一手にドラマ性のある、ハラハラするような凄絶で面白い展開。

1図の△3八角に対する▲5三とが格好いい。

飛車を逃げずに一見ぼんやりとしている▲5三と。

しかし、この手は▲2六金~▲3五歩(▲6三ととして入手する歩)で後手の飛車を殺す恐ろしい狙いを持っている。

森雞二八段(当時)も田中寅彦八段(当時)も執念と意地と気合を濃厚に漂わせながらも、非常に論理的な手の応酬であることがわかる。

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4図からの▲3二飛は、執念燃え上がる一手。

この対局では敗れたとしても、何かの形で次につながると思う。

 

 

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