井上慶太四段(当時)と森下卓四段(当時)の昼食時の歓談

将棋マガジン1985年12月号、石黒米治郎さんの第16回新人王戦決勝三番勝負盤側記「楽しく、さわやかな対決」より。

 疲労からか、新人王を手にした直後の井上の表情はむしろ険しかったが、やがていつものそれに戻った。やさしい笑顔。温和で礼儀正しい青年である。

(中略)

 対局中も、食事のときなどに二人はよく負けた話をした。井上は「小学生名人戦決勝でいまの達四段に敗れて2位。高校選手権でいまの古作二段(関東奨励会)に敗れ準決勝で敗退」……、勝ったためしがないようなことをいう。森下は森下で、「福岡のデパートで小学生の将棋大会があったんです。ぼくはそのとき6年生。決勝で5年生の女の子にぶつかり、負けてしまったんです。いや強かったですよ」。その女の子が林葉直子女流名人だったというわけ。「奨励会に入ってぼくが4級のとき直子ちゃんが6級。香落で指したんですが、また負けてしまいました。四段になってからあるテレビ番組で指すことになり、どうやら勝ちました。だから直子ちゃんには通算1勝2敗なんです」。森下、これはけっして本邦初公開ではなく、よく知れ渡った話と胸を張る。

 楽しく、さわやかな、そして全力をぶつけあった三番勝負だった。勝った井上にも、敗れた森下にも、心からの拍手を送る。

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井上慶太四段(当時)が新人王を獲得した時の新人王戦決勝。

二人の負け自慢が可笑しい。

グラビアには、「昼食を一緒にすませた後も屈託なく歓談していた」と書かれており、関係者も一緒だったと考えられるが、決勝戦を争う二人が一緒に昼食をとっていたことがわかる。

井上慶太九段も森下卓九段も現在の日本将棋連盟常務理事。きっと二人ともこの時のことは覚えていることだろう。

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この頃の井上慶太四段の写真を見ると、現在の羽生結弦選手にメガネをかけさせたような雰囲気。

新人王戦優勝直後の井上慶太四段(当時)。将棋マガジン同じ号に掲載。撮影は弦巻勝さん。