将棋世界2004年5月号、鈴木輝彦七段(当時)の「古くて新しいもの」より。
剱持松二先生が現役だった50代の頃、「俺の生涯勝率は6割だ」と控え室で胸を張ったことがあった。よせばいいのに、若手の一人が3階で記録を調べてきて「先生、4割ですよ」と言った。しかし、先生少しもへこまず「それは記録が間違っている」と言った。これでなくては、C級1組で羽生さんをはじめとする昇級候補を負かせないと感心したものだ。現役も最後の頃に、竜王戦でアマと対したときも大勝して「俺を本気にさせたな」と言って学生のアマを震え上がらせていた。アマプロ戦もこれくらいの迫力が必要かもしれない。
(以下略)
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剱持松二九段の同様の話は4月の記事でも出てきている。
前回と今回の違いは、
・時期
前回:各種統計が発表され始めた頃
今回:剱持松二九段が50代の頃
・剱持七段(当時)のアクション
前回:「君、僕は勝率が7割になるはずだよ」とクレームをつけた
今回:「俺の生涯勝率は6割だ」と控え室で胸を張った
・実際の記録を調べた人
前回:記録担当者
今回:当時の若手棋士
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各種統計が発表され始めたのが、将棋世界で記録関連のページである「将棋パトロール」が始まった時期とすると、1980年8月頃。
剱持松二九段が50代の頃というと1984年以降。
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少なくとも4年で、勝率は1割落ちてはいるけれども、剱持七段は「各種統計が発表され始めた頃の自身の通算勝率は7割」という考え方を貫き通していたということになる。
自信家で後輩の面倒見もよく将棋会館建設の際にも功績が大きかった剱持九段。
「それは記録が間違っている」
勝負師として必要な心意気と言えるだろう。