「腕力では、三浦八段が今は一番だろう」

将棋世界2005年8月号、河口俊彦七段(当時)の「新・対局日誌」より。

 特別対局室では、竜王戦の森内名人対三浦八段戦が行われている。1組決勝という大一番だ。

 夜戦に入ったころは、森内陣は鉄壁を誇って優勢といわれていたが、三浦八段が、しつっこい指し方で敵の金銀のスクラムを崩し、夜の10時ころは、わけのわからない戦いになっていた。腕力では、三浦八段が今は一番だろう。

(中略)

 竜王戦は、三浦八段が勝った。局後の感想では、三浦八段はそれほど不利とは思っていなかったようである。

 控え室に引きあげてきた森内名人は、流石に元気がない。名人戦を戦っている最中に、こういった大一番を負けるのは、よい兆候ではない。それでも気を取り直すように、鈴木八段、木村七段と共に、渡辺竜王の将棋を調べていた。

 終電の時間になり、若手棋士はいっせいに帰ったが、その3人だけは、いつまでも継ぎ盤を囲んでいた。勝つ者ほど勉強する。この鉄則はいつでも変わらない。

(以下略)

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将棋世界同じ号、上野裕和四段(当時)の「第18期竜王戦 1組」より。

 この将棋は感想戦がすごかった。

 盤上の真理を追求する三浦。

 観戦記者を気遣いながらも、同じく真剣に考える森内。

 特別対局室の空気はピーンと張り詰め、誰も口をはさめない。

 序盤は一手損角換わりを含む駆け引きがあり、結局前例のない相矢倉戦に。

 三浦がうまく指して作戦勝ちを収め、じわじわと森内を追い詰めていったのだが、銀をソッポに成った手が緩手となり森内にも楽しみがでてきた。

 1図は△4六歩と突き出したところ。

 ▲同角は角の当たりが強くなるし▲同歩は△3六歩から△5五銀が厳しい。

 自陣に駒を集結させた森内のペースだと思われていたが、ここで三浦は▲7七歩!とじいっと辛抱した。▲7七玉からの入玉狙いを消すマイナスもあるので指しづらい手だが、これが粘り強い一手だった。数手前の▲5八歩も含め、このあたりに三浦の底力を見たような気がした。ここで△4七歩成なら▲9一角成でいい。

 以下も激戦が続いたが、三浦が勝ちきって1組優勝を決めた。

(以下略)

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1図からの▲7七歩は、私など何日かかっても思いつかなさそうな手だ。

1図で▲同角と取ると、△5五銀▲同銀△同飛(▲同角なら△同角が王手飛車取り)ということで、事前に玉のコビンを守った意味合いがあるのかもしれない。

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「腕力では、三浦八段が今は一番だろう」

棋士に対する最上級の褒め言葉の一つだと思う。