「七冠取り トップ棋士へ緊急取材!」(前編)

将棋世界1995年3月号、「七冠取り トップ棋士へ緊急取材!」より。

永世十段 中原誠

 はっきり無理かなと思っていたので、ここまできた状況には驚いています。

 体力的、スケジュール的には不可能だと見ていました。

 僕自身は六冠目前までいったことはあるんですが、やはり体力的にきつく、その後調子を崩しましたから。

 将棋界は、過去一人が多くのタイトルを持つという時代が長く続いていたので、将棋の力としては可能だと見ていましたが。

 王将戦は谷川さんも意地があるし面白い勝負が見れると思います。

前名人 米長邦雄

 羽生善治先生が強すぎるのか、他が弱すぎるのか分からない。

 コメントがほしいという依頼だが、どう答えるべきかも難しい。

「とても敵いません」などと言う人は引退すべきである。かと言って「あの程度であんなに勝てるとは!」などと言っても始まらない。負け惜しみであって”頭を冷やしておいで”という事になる。かかる問題は周りが騒ぐのであって、私のたった一つの道は、黙々と将棋の勉強をするしかない。

前竜王 佐藤康光

 話題性もあるし、素晴らしいことだと思います。精神力の強さには感心しています。

 僕自身の立場から言うと自分が弱いと言われてもしようがないですね。

 個人的には、三つぐらいはタイトルを取らないと羽生さんを倒したとは言えないと思います。

 七冠そのものに対しては、王将戦を黙って見ているしかないですね。

 九段 加藤一二三

 タイトルというのは一つ取るだけでも大変なものですから、今六つ持っているだけでも大変な実績なわけですよ。

 私自身は六冠が一つ増えて七冠になっても同じじゃないかという気持ちもあるんですが、注目して見ていきたいと思います。

八段 塚田泰明

 王将戦は五分だと思っています。

 七冠制覇に関しては、見たくもあるし見たくもないし、という気持ちです。

 一棋士としては取られたくないですね。他の棋士は何をしているんだ、という感じになりますから。

 心情的には同年代の谷川王将に頑張ってほしいですね。

(つづく)

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羽生善治七冠誕生の前年の、王将戦七番勝負〔谷川浩司王将-羽生善治六冠〕の直前の各棋士の談話。

それぞれの棋士の個性が出ているのが面白い。

加藤一二三九段の「私自身は六冠が一つ増えて七冠になっても同じじゃないかという気持ちもあるんですが」は、5000億円が5100億円になっても、感覚的にほとんど同じじゃないか、というような雰囲気なのかもしれない。

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中原誠十六世名人の「はっきり無理かなと思っていたので、ここまできた状況には驚いています。体力的、スケジュール的には不可能だと見ていました」。

これは六冠になるのさえ、体力的、スケジュール的状況に無理かなと思っていたということ。

この後、1年間、羽生竜王が六冠を維持していたのだから、七冠達成に勝るとも劣らないくらいの偉業だと言えると思う。