「女装の挑戦者というのはどうですか」

近代将棋1983年8月号、産経新聞の福本和生記者の「第42期棋聖戦 振り飛車対居飛車穴熊 中原棋聖先勝」より。

 第42期棋聖戦は、中原誠棋聖に挑戦者が森安秀光八段というタイトル戦では初の顔合わせで、五番勝負の熱闘が展開されている。

 第1局は中原が緒戦を飾ったが、森安は「これからを見てください」と、自信満々である。第1局を失ってもけろりとしている。粘力の森安の巻き返しが注目されるが……。

「このところよう負けますヮ。自分でもあきれています。棋士になってから最低の成績ですヮ。ところが棋聖戦だけは不思議に勝って、なんと挑戦者になった。こんなこともあるんですね」

 森安と話していると楽しい。4度目の正直でつかんだ挑戦権を喜んでいるうちに、話題は五番勝負へと移っていく。

「”トッツイ”という映画が評判ですが、これをマネて”女装の挑戦者”というのはどうですか。剃髪よりもっと中原さんは驚きますよ。その気持ちの乱れをついて……。これどうですか、ハハハ」

 森安は、フリオ・イグレシアスにそっくりだという。そういわれると、口もとのあたりが似ている。森安の微笑をみてフリオ・スマイルを思い浮かべるファンが多いとか。この将棋界のフリオが女装したらどうなるか。秘策トッツイ作戦はストップしてもらった。

(以下略)

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近代将棋1983年8月号、原田泰夫九段の「棋談あれこれ」より。

 共同通信部長の田辺忠幸さんによると、森安八段は先般来日の”世界の恋人”スペインのフリオ・イグレシアスにそっくりと、写真を見たらなるほどよく似ている。この種の顔の人はカラオケの名人らしい。

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フリオ・イグレシアスは非常に久し振りに聞く名前。

この頃、『黒い瞳のナタリー』という曲が日本国内でヒットしていた。

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なめ猫、竹の子族、エリマキトカゲ、などもこの頃で、やはり数十年振りに聞くような言葉だ。

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『トッツイー』はダスティン・ホフマン主演の映画で、やはりこの頃流行っていた。

たしかに、女装の挑戦者は剃髪の挑戦者よりも驚かれることは確実だろう。