将棋マガジン1986年11月号、川口篤さん(河口俊彦六段・当時)の「対局日誌」より。
さて、羽生の強さがお判りいただけたろうか。中原・谷川型とちがう、大山・米長型の天才なのである。たしかに強さが判りにくい。
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将棋マガジン1987年1月号、前田祐司七段(当時)の「将棋110番」より。
Q.棋士の型について
前田先生、本当は川口先生に質問すべきですが、将棋界の清原・羽生四段の評価について貴誌86年11月号対局日誌の中で川口氏は「……中原・谷川型とちがう、大山・米長型の天才なのである。たしかに強さが判りにくい」と記しています。そこで質問ですが、①中原・谷川型と大山・米長型とでは具体的にどのように異なるのでしょうか。②神武以来の天才・加藤一二三九段は中原・谷川型でしょうか。それとも別型でしょうか。③他のタイトルホルダーはどういう型なのですか。以上お答えください。
(香川県 Fさん)
A.強者は個性的
一般的な印象は、中原・谷川型が理詰・理路整然。大山・米長型は相手に圧迫感を与えるタイプですか。川口氏はそのように見ているのでしょう。しかし私にはみんな同じに、つまり等しく強者に見えます。
タイトルホルダーはそれぞれ個性が強いと私は思います。将棋のタイプは部分だけを取り上げてもダメ。全体像で見るべきで、しかもトップクラスの将棋のタイプはトップクラスにしかわからないものです。技量が違えば理解できないのが当然ではないでしょうか。川口氏が羽生四段について○○型というのは、上に行くような人は、相手の方が転ぶ、そういう強い星の下にいるといいたかったのでは?また流儀のない若手を分かり易く紹介したに過ぎないと私は考えるんですが……。羽生四段は将来”羽生型”になるしかないでしょう。加藤(一)九段も”加藤型”というより他に呼びようがありません。
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これまでの「対局日誌」を読むと、中原・谷川型は「最善手を追求する」、大山・米長型は「最善手よりも相手の嫌がる手を指す方を優先させる」ということになるのだろう。
ただ、米長邦雄永世棋聖が相手の嫌がる手を指すことを心掛けていたのかどうかはわからないところ。
どちらにしても、Fさんの質問の通り、無理に分類するとかえって分かりづらくなることも多い。
前田祐司七段(当時)の「羽生四段は将来”羽生型”になるしかないでしょう」は、切れ味の鋭い見事な回答と言える。