米長邦雄四冠(当時)「感想戦はいつもプロがアマチュアに勧めることだけれど、そんなに役に立つとは思えない」

近代将棋1985年3月号、米長邦雄四冠(当時)の「さわやか流将棋相談」より。

Q.感想戦をみっちりやると上達が早いと聞いたのですが、対局後並べ直そうとしても指し手がどうしても憶い出せません。どうしたらよいでしょうか。私は45歳で、道場では3級で指しています。(神奈川県 森山さん)

A.番数を指すこと

 感想戦はいつもプロがアマチュアに勧めることだけれど、そんなに役に立つとは思えない。

 プロの説教、親の説教は、忠実に従えばよいのだろうが、そうもゆかぬものである。

 指し手が並ぶか否かは、頭の良し悪しではなく将棋の強さの問題である。局後、指し手を並べ直すためには、初段以上の棋力が必要かもしれない。あなたは3級ということだから、感想戦をするよりは、その時間にもう一局指した方が、ずっと身になるし楽しいはずである。この楽しいということが大切だ。

 私がゴルフへ行って1ラウンド廻った後、あとハーフ廻るか、それとも練習所へ行くか。この場合、プロは必ず練習所へ行くことを勧めるに違いない。が、冗談ではない、たまにせっかくゴルフ場へ来たのに練習などできようか。もう9ホール廻った方がよいに決まっている。

 あなたは感想戦をせずに、番数を多く楽しんだ方がよろしい。

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これはアマ3級の質問者へ対する回答なので、有段者であれば違う内容になっていたのかもしれない。

もちろん、相手とのコミュニケーションを深めることを重視するなら感想戦は有効な手段だが、たしかに、極端に考えれば、15級同士の両対局者が感想戦をやっても、ここでこうやった方が良かったと指し手の内容を検討しあうのはかなり難しい。

自分自身これまでを振り返ると、感想戦をやるようになったのは三段になってから。

それも、負けた相手に対して「ここでこうやられていたら、こちらが悪かったです」のような、相手が気が済むまでのお付き合い。自分が負けたら「いやー、この手が厳しかったです。いい手でしたね」ですぐに切り上げる。

このような取り組みだから強くなれないのかもしれないが、感想戦なしで三段まで行ったのも事実。

もちろん、感想戦をやった方が強くなるというのは正しいのだろうが、ある段階(例えば、並べ直すことができるようになる段階)までは「感想戦をせずに、番数を多く楽しむ」が正解なのだと思う。

「私がゴルフへ行って1ラウンド廻った後、あとハーフ廻るか、それとも練習所へ行くか。この場合、プロは必ず練習所へ行くことを勧めるに違いない。が、冗談ではない、たまにせっかくゴルフ場へ来たのに練習などできようか。もう9ホール廻った方がよいに決まっている」の説得力がすごい。

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指導対局での様々なアドバイス、あるいは都道府県代表クラス以上のアマ強豪が感想戦を見ていてくれてアドバイスを出す、これは掛け値なしに参考になる。