近代将棋1990年7月号、池崎和記さんの「福島村日記」より。
某月某日
和歌山ターミナルホテルへ行く。きょうは神崎五段の結婚式だ。昼過ぎ、会場に着いた。まだだれも来ていない。来るのが早すぎた。喫茶店で時間をつぶし、30分前に行ったら、それでもまだ関係者の姿はナシ。時間を間違えたかと思い、フロントに聞くと「神崎様ですか?そういう方のご予定はありませんが……」係の人はカウンターの下でごそごそしていたが、しばらくして「その式は明日ではありませんか?」。呆れた。私は日を一日、間違えていたのだ。自分の間抜けぶりにだんだん腹が立ってきた。もう一度、喫茶店へ行き、コーヒーを2杯飲んだら、いくらか気持ちが落ち着いた。
某月某日
神崎さんの結婚式。媒酌人は伊達七段夫妻。神崎さんの師匠は故・灘蓮照九段で灘九段亡きあと師匠代わりをつとめてきたのが伊達先生だ。南棋王、福崎八段、小林八段、淡路八段、児玉六段ら大勢の棋士が出席して祝福する。なごやかないい宴だった。
某月某日
「神崎先生の結婚式はどうでした」と奨励会のY君、「楽しかったよ。コバケンさんが『マイウェイ』を熱唱してね」と言うと「マイウェイ?何ですか、それ」。そばにいたH君も知らないという。「シナトラのあの有名な歌を知らないの、君たち」と言ったら、「シナトラって、だれですか」ときた。そうか、そういう年代なんだ。Y君は真顔で、「タナトラなら知っています」
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フランク・シナトラ(1915年-1998年)は、アメリカの非常に有名な歌手・俳優。
映画『ゴッドファーザー』に出てくる歌手・ジョニー・フォンテーンは、フランク・シナトラがモデルとされている。
「マイ・ウェイ」は1969年にリリースされた曲で、日本では卒業式、英国では葬儀でよく演奏されているという。
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この当時、フランク・シナトラが存命中でも、世代が変われば全くの未知の人になってしまっていたということになる。
それにしても、シナトラから田中寅彦八段(当時)を連想するのが絶妙だ。
ちなみに、この時期の関西奨励会でイニシャルがYなのは、山本真也初段と矢倉規広1級。
雰囲気的には矢倉1級の可能性が高いのではないかと思う。
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若い人が昔の有名人を知らないのは、決して変なことではない。
私だって逆に、沢尻エリカさんが今まで何に出演したか全く知らなかったし、顔も覚えていないので、道ですれ違ってもわからないほど。