将棋世界1991年10月号、鈴木輝彦七段(当時)の「対局室25時 東京」より。
特別対局室の加藤一二三九段-森雞二九段戦は昼食休憩の局面が4図。ただならぬ戦いになっているが、加藤先生は指せていると見ていた様だ。その証拠に記者室で二人だけの昼食後、30分以上話をした。対局中の加藤先生の雑談はめずらしい。
「観戦記は月1回位書いているんですか」に「はい」と答えれば、「僕も観戦記を書く事にやぶさかではないんですよ。頼まれた事はないんですけどね」と例の笑い顔で言った。
全日本プロの決勝でも書いて頂いたら面白いなと思った(朝日の解説をされている)。対局者の長考に「こんな所で何を考えているのか」とは書かないだろうけど、読みの本音を探ってはくれると思う。実はこれが一番大変な作業だと私自身は思っている。大悪手にも指す理由はあるのだから。ただ、考えていた事は恥ずかしくて言えないだけだ。
(以下略)
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加藤一二三九段の自戦記は将棋世界や近代将棋で連載されていたので数多いが、加藤一二三九段執筆による観戦記は、確認できるものとしては、近代将棋誌上で書かれた1958年の名人戦〔大山康晴九段-升田幸三名人戦〕が唯一。加藤一二三九段が18歳、八段時代の観戦記。
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「僕も観戦記を書く事にやぶさかではないんですよ。頼まれた事はないんですけどね」
加藤一二三九段には、現在なら、羽生善治九段-藤井聡太七段戦の長編観戦記をぜひ書いてほしい。
必ずや、素晴らしい観戦記になると思う。
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