最後の羽生-大山戦で見せた、大山康晴十五世名人の絶妙の手順

将棋マガジン1991年12月号、「公式棋戦の動き」より。

将棋世界1992年3月号より、撮影は中野英伴さん。

 先月号の勝ち抜き戦の将棋で、大山十五世名人の年輪ある手順を解説したが、この天王戦でも素晴らしい手を見せてくれた。

 対 羽生棋王戦。

 7図は羽生が▲2四歩と打った局面。

 この歩は、△同歩ならば▲同飛で角金両取りの十字飛車の狙いである。

 一見、羽生がうまくやったかに見えるが。

7図以下の指し手
△3四飛▲2三歩成△4五金▲6四桂△5五角▲3三と△5四飛▲2一飛成△6五銀(8図)

 誰もがこの順を見て、絶賛した。

 △4五金に▲2二とと角を取れば△8四飛。角の取り合いは後手良しなので▲6四桂としたが、△5五角と出て狙われていた駒が見事に捌けた。

 最終手の△6五銀で大山の駒すべてがいつの間にか羽生玉に向かっているのも驚きの一つであった。

 毎年毎年大山危機説(A級陥落)が流れるが、先月号の勝ち抜き戦の将棋、この将棋を見る限り、鉄人・大山は健在である。

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7図は、振り飛車がとにかく大好きで振り飛車を贔屓にしている人から見ても、先手の居飛車側が大優勢としか思えないだろう。

しかし、大山康晴十五世名人は、絶妙な指し回しで、この窮地を切り抜け、優勢に転じている。

まるで、魔法のような手順だ。

ところが……

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将棋世界1992年3月号、沼春雄五段(当時)が担当する読者の質問コーナー「将棋Qプラザ」より。

Q.羽生-大山戦より

 3図は天王戦の大山十五世名人対羽生棋王戦です。本誌12月号の大山道場解説では▲2二とで先手優勢となっていましたが、他誌では角の取り合いは後手良しと書いてありました。どちらが正しいのでしょうか。

(新潟県 Aさん)

A.本誌が正解

 3図の直前は先手▲2四歩の合わせに3三の飛車を△3四飛とし、▲2三歩成に△4五金としたところです。

 おそらく▲2四歩で指せると見ていた羽生棋王が、飛車を浮かれるサバキに動揺したのでは、と思います。

 本譜の▲6四桂は△5五角と角に逃げられた失着でした。

 ここは▲2二と△8四飛▲1一と(4図)なら▲8五香が残り先手十分です。

 どちらが正しいか、との疑問でしたが、もちろん本誌の大山解説の方が、ご本人の見解ですので正しいのです。

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なんと、将棋マガジンでの解説をくつがえす、大山十五世名人の解説。

大山十五世名人は将棋世界1991年12月号の「大山の振り飛車実戦道場」で、▲6四桂を疑問手としている。

相手の指し手を誤らせるオーラを持っている羽生善治棋王(当時)の指し手を誤らせた大山十五世名人。

大山十五世名人はこの翌年に亡くなる。

本局が最後の羽生-大山戦となった。

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「先月号の勝ち抜き戦の将棋で、大山十五世名人の年輪ある手順を解説したが」とあるのは、次の一局。

大山康晴十五世名人の、意味がすぐには理解できない振り飛車らしい一手

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大山十五世名人は、この後、癌の手術・退院を経て、この期のA級順位戦でプレーオフに残るなど、大きな活躍をしている。