「その羽生と郷田が1回戦で当たってどちらかがいなくなってしまうのは残念だ」

近代将棋1992年4月号、「棋戦展望」より。

棋聖戦

 第59期棋聖戦五番勝負で、棋聖・南に谷川が挑戦している間に、第60期の予選が進行しており、谷川が3連勝で棋聖を奪取した余韻さめやらぬうちに本戦のメンバーが顔を揃えた。年2回行われる棋聖戦ならではの進行の早さである。

 1回戦のピカ1は羽生-郷田戦。羽生は竜王、棋王のタイトル獲得などすでにA級棋士と遜色のない戦績を挙げている。

 一方の郷田は、クラスは一番下のC級2組に甘んじていて棋戦優勝もなしと、両者の実績には大きな差があるものの、こと棋聖戦に関して見れば郷田はけっして羽生に負けてはいない。第57期・58期と2期連続して本戦決勝に進出している。本戦決勝というのは挑戦者決定戦である。第59期こそ本戦ベスト8で力尽き、今期は2次予選からの出場となったが、鈴木七段、田丸八段、勝浦九段と強いところを連覇しての本戦入りはその実力が確かなことを証明している。

 郷田は、棋士仲間の評価がそれほど高くない。なぜかというと将棋がハデだからである。しかし、筆者は郷田の将棋に華があるゆえに彼の将棋を高く評価している。渋く渋くやってそこそこ勝ったってファンの目には止まらない。ちょっとしたピンチに立たされて強打者を迎えると判で押したように敬遠策では観客はソッポを向いてしまう。というより、勝負の中に生活くささが漂っては、見ている方は少なくとも清々しい気持ちにはなれない。たまには押し出しのフォアボールを出すという失態を演じてもビュンビュン速球を投げ込み、打者と勝負していく新人投手をファンは待ち望んでいる。ファンあってのプロ稼業という意識が希薄になってきているとしか思えない昨今にあって、そうした意味では羽生はもちろん華派である。その羽生と郷田が1回戦で当たってどちらかがいなくなってしまうのは残念だ。

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四段昇段を決めたばかりの郷田新四段とB級2組昇級を決めたばかりの羽生竜王(近代将棋1990年5月号、撮影は炬口勝弘さん)

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華がある、ということは、将棋界に限らずプロとして大きな強みとなる。

もちろん、その人の個性によって、華の方向性はそれぞれ変わってくる。

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郷田真隆四段(当時)は、この期の棋聖戦で挑戦者となっている。

そして、棋聖戦ではタイトルを獲得することは出来なかったものの、ほぼ同時期の王位戦では、谷川浩司四冠(当時)から王位を奪取している。

「郷田は、棋士仲間の評価がそれほど高くない。なぜかというと将棋がハデだからである」

居飛車の正統派、格調が高いと言われる郷田九段の棋風が、この頃から変わっているとは思えない。

自分の道を真っ直ぐ進み、周りが見る目を自らの将棋を通して変えてきた、ということになるだろう。格好いい展開だ。

 

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