将棋世界1993年3月号、「羽生善治、再び頂点へー羽生善治竜王に聞く」より。
―長いシリーズだったと思いますが。
羽生 前半3局ぐらいが日程も厳しく、千日手を含めて勝ち星もなく苦しかったです。
―ロンドンはいかがでしたか?
羽生 すごくいいですね、対局さえなければ(笑)。海外での対局というのも気分がかわっていいものです。
―手応えを感じたのは。
羽生 第4局で九分通り負けていた将棋を拾って、流れを掴んだかなと思いました。
―谷川さんの結婚は?
羽生 それは関係ありません。ただ、2日間対局していると結婚指輪がキラキラと光っているのが非常に目についたということはありますね(笑)。対局中はどうしてもそういう目線になるから、とても目立つ。
―まさか、それが谷川竜王の敗因?
羽生 ハハハ。それは関係ないんじゃないですか。たぶん(笑)。
―島竜王を破り、谷川さんに敗れ、そして今年と竜王戦は感慨深いでしょう。
羽生 1年ごとに浮き沈みが色々とあったので……。取った時は嬉しかったし、取られた時は残念。その年の自分の出来が現れるバロメーターみたいです。
―第6局は風邪で体調を崩していたようですが。
羽生 2週間ぐらい前からずっとひきっぱなしで治りませんでした。風邪なんてここ5年間ぐらいひいたことがなかったんですけど。今年の風邪はしつこい。
―第7局では治っていた。
羽生 ええ。第6局が終わったあと次の対局まで用事がなかったので家でずっとやすんでいましたから。第7局では治っていました。
―第7局で勝ちを確信したのは。
羽生 ▲6七角と引いたところではっきりしたと思いました。
―その時は何を思いました。
羽生 ずーっと勝ちか負けか解らない難しい状態が続いていましたので、▲6七角と引いて勝ちと思ってから終局までの時間がすごく長く感じました。
―今後の目標は?
羽生 棋王戦が非常に重要な勝負だと思っています。せっかく三冠王になったのにすぐに取られては意味がないと思うので、全力で頑張ります。
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羽生善治二冠(当時)が谷川浩司三冠(当時)に挑戦をしたこの期の竜王戦七番勝負は、羽生二冠の●●◯◯◯●◯で、羽生二冠が2年ぶりに竜王に復位した。
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「ハハハ。それは関係ないんじゃないですか。たぶん(笑)」
たぶん、が後を引く終わり方だ。
たしかに、真剣に答えようとするとどちらにも断定はできないし、谷川浩司二冠(当時)自身も何とも答えようがない質問。
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羽生三冠(竜王、王座、棋王)、郷田真隆王位の誕生ということで、竜王戦第7局の勝敗の決着がついた1993年1月6日は、羽生世代の棋士が七大タイトルの半数以上を占め始めた瞬間だった。