窪田義行四段(当時)ワールドの「次の一手」

窪田ワールドのあけぼの。渾身の次の一手の出題。

将棋マガジン1994年7月号~9月号の「あなたの棋力診断」より。

出題は窪田義行四段(当時)。

窪田義行四段(当時)。将棋マガジン1994年5月号より。

将棋マガジン1994年7月号(第4問)

<ヒント>飛車角の捌きを考えて

将棋マガジン1994年8月号(第3問)

<ヒント>自陣を引き締める

将棋マガジン1994年8月号(第6問)

<ヒント>大捌きの前の味付け

将棋マガジン1994年9月号(第6問)

<ヒント>持ち桂を生かす

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窪田義行四段(当時)の次の一手の出題は3ヵ月間で18題。

上の4問は、そのなかでも読者正答率が特に低かった難問。

難問ではあるが、窪田ワールドの真髄を味わうことができる貴重な次の一手とも言える。

それでは、解答と窪田四段の解説を。

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将棋マガジン1994年9月号~11月号の「あなたの棋力診断解答」より。

出題は窪田義行四段(当時)。

将棋マガジン1994年7月号(第4問)解答

解答 ▲7四歩(正答率13%)

 本問では▲4五歩の切り札をいつ使うかが一つの急所となっていますが、いきなりの▲4五歩に高支持(55%)が集まる結果となり、設問がいたずらに難解になったかと反省しています。さて正解の▲7四歩ですが、△同飛と釣り出して手を広げた上で▲4五歩を決行する趣旨です。後手は△同歩か△3二金と守るくらいですが、前者は陣形差を活かした▲7六飛のぶつけが快い指し回しです。△7五歩を強要し、▲3三角成△同桂▲3六飛くらいで十分となります。後者は侮り難い一着ですが、▲4六飛△4五歩▲同飛と大きく飛車を使って先手ペースの戦いです。

 次にすぐの▲4五歩ですが、後手の好防が見えていませんと▲7四歩との比較が難しくなります。▲4五歩には△7五歩と取っておき、当然の▲4四歩に△4二飛(参考図)と転回するのが反撃含みの好着。

 ▲6五歩△4四銀▲6四歩△5五銀と進んでは混戦です。

 ▲5六飛(11%)は△7五歩▲4五歩に△同歩でも歩切れが難点です。

 ▲8六歩(6%)は緩い感じで、△7五歩▲8五歩に△7四飛~△7三桂と活用されて8筋の位がぼやけます。

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最も解答の多かった▲4五歩でさえすぐに見つけ出すのは難しい。

私なら、悩んで▲8六歩としてしまいそう。

正解の▲7四歩以下の変化もプロ的な大局観を持っていないと解釈をするのが難しい。

逆に言えば、この当時の窪田ワールドが最も濃厚に盛り込まれた問題と言えるとも思う。

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将棋マガジン1994年8月号(第3問)解答

解答 ▲7七角(正答率13%)

 3四で飛角交換があった局面。先手は飛車での反撃に注意しつつ馬を作りたい所です。正着▲7七角は、△3三桂▲8三角成△8五飛に▲5六馬△4五銀▲8六歩と連続で逆先を取って一気に優位に持って行けます。なお、▲7七角に単に△8五飛は▲7六角△7五飛▲1一角成として△7六飛に▲7九香の飛車殺しで十分です。

 ▲8八角(15%)は△3三桂以下同様に進み、△8五飛からダイレクトに成られてしまって損です。

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この問題の正解手を見つけるのは難しいが、解説を読むと、▲7七角がいかに素晴らしい手であるかがわかる。

敵に竜を作る余地を与えずに、自軍のみが馬を作るための周到な手順。

味わい深い窪田流だ。

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将棋マガジン1994年8月号(第6問)解答

解答 ▲2五歩(19%)

 本問は実戦的感覚を問う難問となってしまった様です。▲2五歩は△同歩と取らせてから▲7八飛と回り、△6五桂を見て▲2四歩△同玉▲4四角(参考2図)と強く捌く狙い。

 △7八飛成▲2二角成△6七竜と斬り合えば▲2六歩△同歩▲1一馬が詰めろで一気に勝てますし、△4四同角には堂々の▲7五飛で優勢です。

 なお▲2五歩に手抜きで△6五桂跳ねは、▲2四歩△同玉と見出して▲8八角と引いておくのが実戦的。△8六歩▲同歩△8七歩には慌てず▲7六歩で飛角交換は先手十分です。

 ▲7八飛(16%)は△6五桂▲4四角の時、後手陣が乱れずやや損です。

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ヒントの「大捌きの前の味付け」のみを考えれば、▲2五歩かなとは思うけれども、その先が読めない。

ところが、▲4四角(参考2図)は、まさに「このような手を指したかったから振り飛車党になったんだ」というような振り飛車党の本懐のような局面。

じわじわとくる窪田流だ。

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将棋マガジン1994年9月号(第6問)解答

解答 ▲4七桂(11%)

 かなり手の広い局面でもあり、色々味の良い手が見える所です。▲4七桂は▲3五桂打を見せて後手にプレッシャーをかけています。後手△2二玉と受けますが、▲5五歩を利かして十分。△5三金なら後で▲8六角~▲5四歩の味良く、△5八飛の踏ん張りも▲6九歩△5五金▲5九歩で引き締まります。

 ▲4三桂(44%)は高支持が集まりましたが、これは完全に無筋。△6四角▲5一桂成△4二金(参考2図)と進んでは先手困っています。

 ▲3五歩(7%)は良くある筋ですが、金が4三にいないため却って受けられ易くなっています。△6四角▲3四歩△同銀▲3五歩に△4三銀引と引かれ難解です。

 ▲2五桂(4%)は玉頭戦を狙って一理も二理もあります。ただ△4二銀と引かれて明快さに欠けます。

 3ヵ月お付き合い頂きましたが、いかがでしたでしょうか。ともすれば難問に陥ったかと自省していますが、その分実力錬成には役立った事を保証して結びとします。

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ヒントの「持ち桂を生かす」は、かなりのヒント。

窪田四段の、より多く正解の人が出てほしいという気持ちの表れと言えるだろう。

ひと目、桂を打つなら▲4七桂が筋だが、その先が読めない。

その先も、後手が何もしなかったら▲3五歩とでも指すのかなと思っていると、▲3五桂打。

この問題も濃厚な窪田流の世界。

「ともすれば難問に陥ったかと自省していますが、その分実力錬成には役立った事を保証して結びとします」に、窪田四段の真っ直ぐな気持ちが表れている。

窪田四段の個性が埋め込まれた、嬉しくなるような次の一手ばかりだ。

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将棋マガジンの段位獲得コース「あなたの棋力診断」は、新四段(および新四段に近い棋士)が3ヵ月間出題を担当していた。

1991年以降の出題担当棋士と平均読者正解率は次の通り。(段位は当時)

  • 杉本昌隆四段 59.8%
  • 丸山忠久四段 76.9%
  • 藤井猛四段 73.0%
  • 佐藤秀司四段 67.1%
  • 深浦康市四段 68.4%
  • 豊川孝弘四段 65.7%
  • 飯塚祐紀四段 61.6%
  • 真田圭一四段 75.6%
  • 三浦弘行四段 76.6%
  • 伊藤能四段 66.8%
  • 川上猛四段 64.1%
  • 久保利明四段 51.7%
  • 行方尚史四段 70.7%
  • 岡崎洋四段 73.9%
  • 窪田義行四段 47.8%

窪田四段が47.8%と、圧倒的に難問が揃っていたことがわかる。

平均読者正解率を見てみると、杉本四段、久保四段が50%台で、(藤井四段を除く)振り飛車党の棋士が出題する問題は難問が出る傾向があったと考えることができる。振り飛車に現れる普段の局面自身が難問になるような局面が多いのかもしれない。

平均読者正解率が高い1位と2位が丸山四段と三浦四段。

研究熱心な居飛車党を代表する二人が、正解率が高くなるような問題を多く出題したのも、興味深くて面白い。

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窪田四段の「四段昇段の記」

窪田義行四段(当時)「私は、四間飛車で勝つため棋界にいる。決して離れることはない!」