行方尚史四段(当時)「羽生さんの世代に続くのは僕だ、とアピールするいい機会だと思います」

将棋世界1994年9月号、「第7期竜王戦」より、決勝トーナメントに出場する11人と佐藤康光竜王のコメント。(タイトル・段位は当時)

  • 佐藤康光竜王 今回は若手が入っているという印象です。本命は羽生さん、対抗は一応森内さんに。米長先生、高橋さんも有力です。どなたとも戦ってみたいですが、誰が挑戦者になっても、楽観はできませんね。
  • 高橋道雄九段(1組優勝)低迷が続いてましたが、私は巨人が活躍する年は調子がいいんで、絶好調の巨人にあやかりたい。最近はタイトル戦に縁遠くなってましたが、7月中旬に生まれる二人目の子供のためにも頑張ります。
  • 南芳一九段(1組2位)確か4回目の決勝トーナメント出場ですが、いつもすぐ負けています。今回はまず挑戦者決定三番勝負進出を目指します。最近は大事な一番を負けていますが、将棋自体は普通の調子です。
  • 米長邦雄前名人(1組3位)”18歳”の私より年長の者ばかりです。コツコツと一局ずつ進めて行きたい。頭の中ではいつも白星ばかりですが、現実はどうなりますでしょう。スケジュールの合間にフランス語も勉強中です。
  • 羽生善治名人(1組3位)目標は挑戦以外ありませんが、竜王への道は険しいですね。幸い五冠のおかげで対局が少ないので、体調を整え第1局のパリ行きを目指します。究極の夢”七冠”への道がつながったので頑張ります。
  • 村山聖七段(2組優勝)今回はクラスが上がり2組代表。そんなに勝たなくてもいいので、より頑張れる気がします。米長先生はやりにくい相手ですが、みんな挑戦者を目指しているでしょうから、僕も精一杯頑張ります。
  • 中村修八段(2組2位)第1期以来の決勝トーナメントです。やはり羽生名人が出て来ましたね。急所の一番でよくやられているので、何とかお返しをしたいものです。奇跡的に勝てたら一気に挑戦者まで狙います。
  • 森内俊之七段(3組優勝)昨年と同じ挑戦者決定戦までは行きたいですね。最初は深浦君か行方君、楽観はしていません。先のことは考えず一生懸命やるだけです。最近いい所で負けているので気を引き締めて臨みます。
  • 屋敷伸之六段(3組2位)今期はよくもなく悪くもないといった調子です。タイトル戦出場は3年以上前のこと。タイトル戦の良さ、楽しさは忘れられず、また主役になりたい気持ちで一杯です。まず初戦を突破しないと。
  • 中田宏樹六段(4組優勝)調子はそんなによくはないのですが、ツキもあり4組で優勝できました。決勝トーナメントは初めて。強い人ばかりなので、とりあえず1勝が目標です。できればまたタイトル戦に出たいです。
  • 深浦康市四段(5組優勝)5組代表は本戦の勝率が悪いけど、クラスの名誉にかけて頑張ります。前回の1勝を上回りたいと思います。買った和服がかわいそうなので、タイトル戦に出たいという希望はあります。
  • 行方尚史四段(6組優勝)羽生さんの世代に続くのは僕だ、とアピールするいい機会だと思います。本戦出場は当面の目標だったのでうれしい。きつい相手ばかりですが、自分の将棋を指せれば勝ち進めると思っています。

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佐藤康光竜王の「対抗は一応森内さんに」の”一応”が、ライバルであり親しい森内俊之七段に対する微妙な対抗心が見えていて面白い。

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高橋道雄九段の「私は巨人が活躍する年は調子がいいんで、絶好調の巨人にあやかりたい」。

高橋九段は大の巨人ファン。

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南芳一九段の「今回はまず挑戦者決定三番勝負進出を目指します」。

数年前まではタイトルを複数保持し、タイトル戦の常連でもあった南九段。ここで逆襲に転じたいところ。

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米長邦雄前名人の「スケジュールの合間にフランス語も勉強中です」は、七番勝負第1局がフランスで行われることから。

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羽生善治五冠の「目標は挑戦以外ありませんが、竜王への道は険しいですね。幸い五冠のおかげで対局が少ないので、体調を整え第1局のパリ行きを目指します。究極の夢”七冠”への道がつながったので頑張ります」。

竜王戦挑戦と七冠。羽生九段が、このような肉食系のコメントをするのは珍しいと思う。

とはいえ、「道が険しい」「道がつながったので」と、謙虚な表現であるところは、羽生九段らしい。

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村山聖七段の「そんなに勝たなくてもいいので」は、2回勝てれば挑戦者決定三番勝負に進出できる、あるいは4回勝てれば挑戦者になることができる、ということ。

だから「より頑張れる気がします」というのは、気持ちがよくわかる。

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中村修八段の「やはり羽生名人が出て来ましたね。急所の一番でよくやられているので、何とかお返しをしたいものです」は、初戦で羽生五冠と対戦することから。

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森内俊之七段の「最初は深浦君か行方君」。君づけがとても新鮮に感じる。

歳を取ると、自分のことを君づけで呼んでくれる人がほとんどいなくなっていることに気がつく。

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屋敷伸之六段の「タイトル戦の良さ、楽しさは忘れられず、また主役になりたい気持ちで一杯です」。いつも笑顔で淡々としている雰囲気の屋敷九段だが、この時はタイトル戦に対する思いを率直に述べている。

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中田宏樹六段の「できればまたタイトル戦に出たいです」。

実力派の中田宏樹八段がタイトル戦に登場したのは、この3年前の1991年の王位戦。

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深浦康市四段の「買った和服がかわいそうなので、タイトル戦に出たいという希望はあります」。

四段にして既に全日本プロトーナメント、早指し将棋選手権、早指し新鋭戦で優勝を果たしている深浦四段。 「買った和服がかわいそうなので」が深浦九段らしい優しさだ。

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行方尚史四段の「羽生さんの世代に続くのは僕だ、とアピールするいい機会だと思います」。

有言実行、行方四段は竜王戦初出場で挑戦者決定三番勝負へ進むこととなる。

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下のトーナメント表は、将棋世界1994年10月号より。挑戦者決定三番勝負直前の頃のもの。