木村一基八段の最も印象に残る一手

近代将棋2005年10月号、加藤昌彦さんの「運命の一手」より。

木村一基八段の最も印象に残る一手。

木村一基の魅力は強靭な粘りである。少しくらい苦戦でも、絶対に諦めないで、相手にじわっとプレッシャーを掛け続ける。そうするうちに形勢の差が縮まると、大抵は木村の流れに変わって、逆転勝ちという具合だ。

(中略)

木村の特徴が最も表れているのが、第33回新人王戦第3局、木村一基六段-鈴木大介七段戦だ。

(中略)

序盤に鈴木の鋭いパンチが入って、木村は思わぬ劣勢に立たされた。押せ押せでくる鈴木に対し、さすがの木村も持ちこたえられないのではと見られていた。ところが、木村本人は緊張の糸を切ってはいなかった。

図は鈴木が△3八銀不成と追ったところ。ここで▲6七玉が絶妙の早逃げ。

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以下、△2九銀不成と飛車を取るのは▲5四歩が抜群の味になる。だからと言って△4七飛成では▲5七金と当てられて、龍を逃げるのでは後手側がおかしい。早見えの鈴木も仕方がなかったのか思わず手を止めて長考に沈んだ。

そして52分使って△2五桂と指したが、やっぱりここでも▲5四歩が急所の突き出しになっていた。

「運命の一手というよりも、棋士になってから一番印象深い一手ですね」と、木村は当時のことを振り返っている。決してスマートではないが木村らしい耐久力のある戦い方が、この勝利に表現されていた。さばきの名手、鈴木の猛攻を受け切ったのも大きな自信になっているだろう。堂々たる新人王戦優勝だった。

(以下略)

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飛車を見切っての玉の早逃げ。

終盤ならともかく、中盤での一手。

大駒を見切って他の手を指す、というのは見ていて本当に格好がいいと思う。