親切で丁重で言葉づかいがよそ行きになっている村山聖八段(当時)

将棋世界1996年3月号、河口俊彦六段(当時)の「新・対局日誌」より。

 王将戦が開始されると同時に、七冠王への秒読みが始まったようである。話題になるだろうとは思っていたが、これほどとは予想していなかった。

 なにしろ第1局が終わった翌日の、スポーツ各紙の一面全部が羽生勝ちの話題だからたまげた。なかには、プロ野球の優勝争いのように、七冠までマジック3,というのもあった。

 以前から田中(寅)九段は、将棋の勝敗の結果が、スポーツ番組で伝えられるようにならなければだめだ、と言っていた。その夢が実現したわけだが、これがつづくかどうかである。ともあれ、羽生六冠王の力たるや(あらゆる面にわたって)恐るべきものがある。

 そうして六冠王は、いわゆる「孤高の人」になりつつあり、棋士達から離れていっている気配もある。だから、将棋会館の4階にいるかぎり、マジック3なんていうのは別世界の出来事みたいに感じられる。こういったところに、将棋界の特徴がある。たとえば、羽生一色の棋士が出れば、あれでは谷川さんが気の毒だ、という感じなのである。

 王将戦第1局の2日目も、将棋会館の控え室では、経過が話題になるようなこともなかった。夕方になり、中原さんが「ちょっと調べようよ」と言って、継ぎ盤が並べられたくらいで、もし、マスコミが取材に来てたりすれば、棋士の無関心ぶりにあきれただろう。

(中略)

 午後、特別対局室に顔を出すと、中原永世十段対村山八段戦は、すでに中原優勢で仕上げの段階。したがって二人とも盤面に集中している。

(中略)

 中原永世十段は快勝。村山八段を押し潰した。そして控え室に来て「明日テレビで解説するんで調べとこう」と言いながら、王将戦を並べた。中村八段と村山八段が相手役だ。実戦は羽生六冠王が▲5一角と打ち込んだあたりだが、20分ばかり、あれこれやってみると、すべて羽生勝ち。「なんだ、終わってるんじゃないか」。誰ともなく声が出た。

 そんな有様を見て、ちょっと外に出て戻ってくると、もう羽生勝ちで終わっていた。2階の大盤解説会は超満員だそうで、解説役の中村八段は、「ついでに順位戦も見せましょう」とか言って、米長対島戦を調べはじめた。

(中略)

 控え室では、村山八段と中井女流王将が継ぎ盤をはさんで検討している。横で見ていると、中井さんの手がよくしゃべっている。つまり、考えた手を臆せず指しているのだ。これも素質がある証拠だろう。並の若手には村山君に対し、うっかりした手は指せないと、尻込みする気配がある。なにを言われるかしれやしない。

 ところが、女性に対すると用心棒はやけに親切で丁重である。言葉づかいがよそ行きになるからおもしろい。女性棋士は村山八段に教えてもらう一手だ。

(以下略)

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「並の若手には村山君に対し、うっかりした手は指せないと、尻込みする気配がある。なにを言われるかしれやしない」

このような雰囲気は、以前に河口俊彦六段(当時)が書いている。

世の中で一番恐ろしい控え室

「ところが、女性に対すると用心棒はやけに親切で丁重である」

用心棒とは、もちろん村山聖八段(当時)のこと。

上記の記事で、

「そうして控え室にいると、先崎六段と北浜四段が継ぎ盤を作りはじめた。いつの間にか、村山八段がテーブルにひじをついてぶすっと眺めている。道場の用心棒、といった感じだ」

と描かれている。

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「言葉づかいがよそ行きになるからおもしろい。女性棋士は村山八段に教えてもらう一手だ」

同じ戦いの場にいる男性の棋士には勝負師として接し、同じ戦いの場にはいない人達には優しく接する村山聖八段。

そのギャップも村山聖九段の魅力の一つなのだと思う。