中井広恵女流五段(当時)「先日も、佐藤康光八段と仕事でご一緒したが、私が側に寄ると、何故か小声になる」

近代将棋1996年8月号、中井広恵女流五段(当時)の「棋士たちのトレンディドラマ」より。

NHK将棋講座1996年7月号より、撮影は河井邦彦さん。

 私がエッセイを書いているせいか、親しい友人達は、何か書かれるのではと警戒しているようだ。

 先日も、佐藤康光八段と仕事でご一緒したが、私が側に寄ると、何故か小声になる。そして、

「書かないでくださいよ」

 と先手を打たれてしまうのだ。

 私も友人を無くしたくないので、いろいろな情報をいただいても、殆どがここに書けないネタばかり。

 以前、島八段が、

「原稿も定期的だと大変ですよね。困った時の森下頼み。彼の話なら、いくらでも知ってますからねえ」

 島先生もいろいろなところに原稿を書いてらっしゃるが、家が近いこともあってか、度々森下先生が登場する。

 女流棋士でネタがつきないといえば、この方、斎田晴子さん。

 晴子さんは、おしとやかで、知的で、本当に素敵な女性なのだが、時々大ボケを言ってくれるのが、また面白くて好かれるところ。

(以下略)

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近代将棋1996年10月号、中井広恵女流五段(当時)の「棋士たちのトレンディドラマ」より。

 夏といえば将棋まつり。今年も全国各地で開催された。

 私は4ヵ所ほどまわらせていただいたが、ファンの方だけではなく、プロ棋士にとっても楽しみなイベントだ。

(中略)

 長野の東急百貨店でも将棋まつりをやっていただいている。今年で24年になるそうだ。

 こちらは、プロ同士の対局に懸賞金がつくので、お好み対局といえど、真剣だ。羽生六冠王の対局には10本もの懸賞金が付いていた。

 この長野での出演者は、朝に善光寺へお参りして、その帰りに大丸さんでおそばをいただいてから東急百貨店へ向かうのがお決まりのコースとなっている。

 出演日前日に大丸さんの御主人とお会いしたので、

「最近どうも調子が悪いと思ったら、しばらく善光寺さんにお参りに行ってないんですよ」

と言うと、横から斎田さんが、

「私もです」

と同調する。

 あまり、神だの仏だのというのは信じないのだが、確かにお参りした年は成績が良かったのだ。

 それじゃあ、明日の朝一番に行こうということになった。

 ホテルから歩いて15分ぐらいだというので、散歩がてらテクテク歩いていったが、歩けど歩けど、いっこうに着かない。

 アオカン(青い看板の標識のことをこう呼ぶと、久美ちゃんに教えてもらった)を見ながら行ったのだが、どうやらこれは車のためのもので、だいぶ遠回りをしたようだ。

 おかげで40分歩いて、やっと善光寺さんの裏側へたどり着いた。(今考えると、途中で聞かない私達は何ておバカなんだろうと思う)

 正面へまわり、バッグからお財布を取り出してお賽銭箱へ。

「今年は特にお願いしたいことがあるからちょっと奮発して100円にしておこう」

そう言いながら100円玉を投げ入れて念入りに願をかける。顔を上げてふと隣を見ると、晴子ちゃんは105円にぎっているではないか。しっかりしてるわ。

 この5円の差が早くも出て、席上対局は完敗。110円入れとくんだった。

(以下略)

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「先日も、佐藤康光八段と仕事でご一緒したが、私が側に寄ると、何故か小声になる」

ここに佐藤康光八段(当時)の名前が出てくるということは、佐藤康光八段もネタが尽きない、ということなのだろう。

中井広恵女流五段(当時)は以前に次のような名記事を書いている。

運の良い棋士とそうでもない棋士(後編)

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「原稿も定期的だと大変ですよね。困った時の森下頼み。彼の話なら、いくらでも知ってますからねえ」

困った時の◯◯頼み。

たしかに、このブログのこれまでの記事をいろいろと思い出してみると、それぞれの書き手の「困った時の◯◯頼み」がわかるような感じがする。

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「この長野での出演者は、朝に善光寺へお参りして、その帰りに大丸さんでおそばをいただいてから東急百貨店へ向かうのがお決まりのコースとなっている」

「大丸」は、元禄16年(1703年)創業の、300年以上の歴史を持つ蕎麦店。

創業300年!長野・善光寺門前の老舗手打蕎麦屋 かどの大丸(mog-mog)

1703年というと、赤穂浪士が預り元の大名屋敷で切腹をした年なので、本当に歴史が長い。

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「アオカン(青い看板の標識のことをこう呼ぶと、久美ちゃんに教えてもらった)」

「青い看板の標識」と7文字で済むところを、36文字をかけているこの表現、この注釈が、あまりにも絶妙で可笑しい。

引き合いに出された山田久美女流二段(当時)も苦笑するしかなさそう。

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「顔を上げてふと隣を見ると、晴子ちゃんは105円にぎっているではないか。しっかりしてるわ。この5円の差が早くも出て、席上対局は完敗。110円入れとくんだった」

勝負は紙一重、ということを実感させてくれる事例だと思う。

 

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