「タテ歩取りの場合実際に歩を取ることは少ないのにこの名があるのはおかしいのではないか、と以前疑問が出された」

将棋世界1997年4月号、沼春雄六段(当時)の第46期王将戦七番勝負第4局〔羽生善治王将-谷川浩司竜王〕観戦記「羽生、復活の防衛劇」より。

 なお横歩取りは3四の歩を横から取ってしまうのでこの名前がつけられているが、タテ歩取りの場合実際に歩を取ることは少ないのにこの名があるのはおかしいのではないか、と以前疑問が出された。

 これに対しては、人間も横には太(歩取)れるがタテには太れないからこれでいいのだ、と分かったような分からないような説明がなされていたが、そのまま定着しているのだからおおらかな時代だったともいえよう。

(以下略)

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横歩取りは、次の局面から3四の歩を取る展開となるわけだが、

タテ歩取りは、以下の図から、通常の場合は△3三金と上がられて、3四の歩を取ることができないことが多い。そのようなことから「タテ歩取りの場合、実際に歩を取ることは少ないのにこの名があるのはおかしいのではないか」という話が持ち上がる。

もっとも、1990年代頃から、「タテ歩取り」ではなく「ひねり飛車」と呼ばれることが多くなったわけで、これは、後手が角道を開けないうち(後手がなかなか角道を開けてくれない)に、ひねり飛車になることが多かったからとも考えられる。

どちらにしても、ひねり飛車にするのが好きな人は、2図で△3三金と守ってほしいというのが本音。△3三金と上がってくれれば円滑にひねり飛車にすることができるけれども、逆に△3三金以外の手を指されて「3四の歩を取ってこい」と言われると、ひねり飛車とは全く別の将棋になってしまう。

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「人間も横には太(歩取)れるがタテには太れないからこれでいいのだ」

非常に説得力がある名言に一瞬思えてしまうが、よくよく考えると意味がわからなくなり、もう少し考え続けるとやはり名言に思えてくる、不思議なパワーを持った言葉だ。