飛び飛びで、「中原誠十六世名人にとって最も印象に残るタイトル戦」である、1972年の名人戦の模様をブログで書いているが、今日は当時の名人戦の大盤解説会の模様について。
この頃の大盤解説は、朝日新聞本社の裏手(現在の有楽町マリオンの裏手あたり)で行われていた。八段の棋士が解説をして、3m四方の大盤を故・佐藤健伍四段が操作する。
当時の将棋世界より抜粋。
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有楽町名物大盤解説は今年も人気がでた。
第5局の解説は花村元司八段と木村義雄十四世名人であった。
二日目12時ちょうど。
「みなさま。こんにちは」と花村八段。
つめかけた人垣から「よう花村!」と声がかかる。拍手が起こる。
「…両雄はかたくなっているかというと、そうではない」
花村八段満面に笑みをたたえて語り始める。
「本局は、粘り勝ちして相手を負かす、という将棋じゃない」
”打ち消し”でおわるのが花村流。
(中略)
有楽町のほうは「かくいう花村も序盤は自信がないが、これからは花村の独壇場」と名セリフを吐いた。拍手喝采である。
「74分考えて5三銀。なにゆえに、仕掛けて長考したか」花村八段、柔和な眼をぐっと見開いた。観客は固唾をのんで次の言葉を待っている」
(中略)
花村八段、ツボをこころえた解説ぶりにファンの間で大爆笑が起こった。
結びは木村名人である。
「情においては大山名人に勝たせたい。しかし、若い者が競い立ってきませんので、第6局は中原君に奮闘してもらいたい」
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この大盤解説が行われたのは1972年5月19日。アメリカから日本へ沖縄返還された4日後のことだった。