剃髪の名人戦の舞台、159年の歴史に幕

この年末年始は仙台へ行っていたが、地元紙の「仙台ホテルが営業に幕 創業159年 宿泊客、別れ惜しむ 」という記事を見てハッとした。

仙台ホテルは名門のホテルで、皇室をはじめ、政財界の要人や芸能人も利用した。アインシュタインが宿泊したこともあるという。

そして将棋の世界的には、1978年の名人戦第一局、中原誠名人-森けい二八段戦の対局が行われた場所として知られる。

前夜祭まで長髪だった挑戦者の森けい二八段(当時)が第一局の朝、頭をスキンヘッドにして現われたという「剃髪の挑戦」。

仙台ホテルは昨年の12月31日で幕を閉じた。

時代の流れとはいえ、二重に寂しい感じがする。

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仙台ホテルを偲んで、剃髪の名人戦の時の模様を。

将棋マガジン1984年5月号、故・清水孝晏さん「思い出の棋士たち」より。

昭和53年3月15日、仙台ホテルにおいて中原-森の名人戦第一局のスタートが切られようとしていた。

加古明光記者の「森八段入ります」の声で、関係者は、挑戦者森八段の登場を固唾をのんで待っていたが、そこに現れたのは青頭の坊主で、私は鈴木英春三段かと思っていたら、つかつかと中央に進んで挑戦者の席にピタリと座った。廻りの人々も、この異様な闖入者に声を呑んだ。それ以上に驚いたのは中原名人だろう。が、その坊主頭がヒョイと顔をあげると中原は”アーッ”と驚愕の声をあげた。それが昨日まで髪ふさふさとした森八段であったからだ。

時間にして数秒であろうが異様な雰囲気になったそのとき、立会いの花村九段が「大和尚に無断で坊主になっては困るな!」と即妙なジョークで笑いを誘い、無難なスタートとなった。こうした俊敏な変り身の早さが花村将棋の根幹をなしているのだろう。

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この対局は、短手数で森八段の圧勝。

新聞観戦記は山口瞳さん。

1976年に名人戦が朝日新聞から毎日新聞へ移管されて、はじめての名人戦の対局でもあった。