若き日の羽生流価値観

羽生善治名人はAB型。

AB型は時としてB型よりもマイペースと言われることがある。

将棋マガジン1996年1月号、鈴木宏彦さんの「羽生善治、七冠へ翔ぶか」より。

既存の価値観や常識にとらわれない。これが羽生将棋の顕著な特徴である。大きく見れば、それが羽生の人生哲学だといってもいい。小学校三年生、アマ初段と氏の羽生が創った詰将棋に飛車が3枚あった。見せられた道場の席主が「こんなの詰将棋じゃないよ」と言うと、羽生少年はけろりとして、「だってそれじゃないと詰まないんだもん」と返した。このエピソードは多分にその後の羽生の棋士人生を象徴していると思う。

婚約者の畠田さんは、さすがに羽生のことをよく見ている。

「周りの目を気にしない。いい意味で、自分の価値観だけで生きている。そこが一番好きなところです。髪によく寝癖がついていて、ぴんと立っていたりするんですが、全然気にしないんです。自分がどう感じてそれが周りの常識の範囲内で正しいかどうか。それが重要なんです」(畠田さんの言葉。平成7年10月のテレビ番組・花王ファミリースペシャル『超天才・羽生善治』より)

10月31日、長野で行われた竜王戦第2局指しかけの夜、こんなことがあった。

タイトル戦の指しかけの夜、対局者は関係者と一緒に歓談しながら食事を取るのが普通である。

(中略)

ところがこの夜、羽生は「今日はちょっと」とだけ言い残して外出してしまったのだ。

設営の関係者はちょっと慌てた。食事のキャンセルは大した問題でないにしても、なにより主役の体が心配だ。いうまでもないことだが、指しかけの夜というのは、対局継続中の時間内である。前夜祭や打ち上げのあとの外出とは意味が違う。

だが、1時間ほどして戻ってきた羽生は例によってけろりとしていた。

「朝と昼をしっかり食べたので夜は軽くしたかったんです」(ちなみに、夜のメニューはフランス料理のフルコースだった)

(中略)

七冠王になるかどうかということ自体、羽生にとってそれほど重大な関心事ではないように思える。七冠達成の瞬間、大騒ぎする周りの人間を横目に、本人だけはけろりとしている。そんな光景が目に浮かぶようだ。

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私はAB型でかなりマイペースだ。

しかし羽生名人の場合、マイペースといっても価値観の裏付けのあるマイペースなので、私のマイペースとは比べようがないくらいに異なるマイペースだ。