5月1日の第4回武蔵の国府中けやきカップで中継を担当した銀杏記者と蝶結記者。
日本初の、同一対局の二人の中継記者による並行中継(決勝戦:松尾香織女流初段-島井咲緒里女流初段)を中心に、当日の中継を振り返ってみたい。
参考ブログ記事→「銀杏記者vs蝶結記者」
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1回戦 蛸島彰子女流五段-中倉宏美女流二段戦 (蝶結記者)
蝶結記者の本中継の主題は、中倉宏美女流二段がファンの人気ユニット”Perfume”だった。
すべての事象が、Perfumeの曲名に強引なまでに結び付けられる。
いくつかのコメントをピックアップしてみたい。
6手目:△8五歩
中倉宏美二段といえば、人気アーチストperfumeのファンであるのは有名だろう。昨年の年末のフランボワーズカップ開催後の交流会では、のっち(大本彩乃)の扮装でダンスを披露してくれた。
最近、都内某所で、中倉宏美女流二段と船戸陽子女流二段がPerfumeの「チョコレイト・ディスコ」をPerfumeの振り付けのままで歌っているのを偶然見る機会があった。
その華麗さに、私は非常な感銘を受けた。
19手目:▲3八銀
これで美濃の部屋へ入室が完了。このひとりの部屋なら、あとはいくら暴れても騒いでも平気だ。音楽をかけて計画をねりねり、ワンルーム・ディスコ。
公開対局で蝶結記者が中継をしている時の姿を何度か見たことがあるが、真摯な姿勢で顔色をひとつも変えずにノートパソコンに向かっているのが常だった。
この時も、非常に深刻な表情をしながら「計画をねりねり」などと打っていることになる。
50手目:△9九角成
果敢に攻めを仕掛け、身をまかせてジャンプしてみる。Zero Gravityに、解き放てキミの心を。
寺山修司テイストだ。
117手目:▲2八同玉(蛸島女流五段の勝ち)
ダンスフロアが一瞬の静寂に包まれ、ディスコタイムが終った。中倉宏美二段が「負けました」と投了を告げた。終局時刻は12時01分。△1八香成と迫っても先手玉は寄らない。勝った蛸島五段は準決勝で島井咲緒里初段と対戦する。
必至をかけられた中倉宏美女流二段が蛸島玉に猛烈な追撃をかけるが、詰みがなく無念の投了。
「ダンスフロアが一瞬の静寂に包まれ、ディスコタイムが終った」が絶妙だ。
1回戦 松尾香織女流初段-渡部愛TJP戦 (銀杏記者)
ネット中継の神とも言うべき銀杏記者。
13手目:▲6九玉
矢倉は松尾初段の裏芸。
こういう解説が嬉しい。
20手目:△8五歩
単に△5五歩は▲6五歩△5六歩▲2二角成△同金▲5五角がある。 ▲7七銀と上がらせて、8八角を重くする狙い。
こういう解説も嬉しい。
26手目:△3三銀
渡辺竜王が最初に指して話題になった手。従来は△5四銀としていた。自分だけ歩交換をしようとする欲張った手。
簡潔にして、歴史と狙いが一度に理解できる解説。
55手目:▲6四成銀
しかし、この切り返しがある。読み勝っているのはどちらか
スリリングな局面であることを初心者でも感じ取れる。
82手目:△3二同銀
銀が2枚並んだ形は隙が少ない。
このような解説も嬉しい。
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準決勝 蛸島彰子女流五段-島井咲緒里女流初段戦 (銀杏記者)
「もしかしたら、次に△7四歩と突かれます?」(中座七段)
「うーん、いやですね」(渡部TJP)
「だから行くしかないんですね」(中座七段)
のような、大盤解説会での解説をふんだんに取り入れた中継。
準決勝 中倉彰子女流初段-松尾香織女流初段戦 (蝶結記者)
24手目:△5三銀
この2人は1dayトーナメントでは昨年9月のファンクラブカップの予選で対戦し、その時は松尾初段が勝っている。とはいえこの時はオンライン対局ページを使っての対局で、実際に盤を挟むのは久しぶりとなる。新鮮な気持ちで対局をしていることだろう。
蝶結記者らしくなくて、かえって不気味な出だしである。
本局では、
「味のいい銀引きですね。松尾初段は味のいい手に惚れこむタイプなんです(笑)」(石橋四段)
と、銀杏記者と同様、大盤での解説が多く取り入れられている。
50手目:△2二玉
中倉彰子初段は宏美二段と同じく和服に袴姿が実に凛々しい。髪もややブラウンががって、本日会場で配布のパンフレットにある通り、ママドル棋士の代表選手らしい若々しさ。
51手目:▲4五歩
松尾初段はモスグリーンの薄手のニットに薄茶のスカート。胸元にあしらわれたビーズが目にもまぶしい。
このへんから蝶結流が発揮されてくる。
72手目:△4七歩
この2人はともに既婚者、しかも男性棋士を伴侶に持つという共通点がある。二人には、「結婚前と結婚後で妻となったことで将棋の棋風が変わったか」「ご主人さまが強い男性棋士となったことは、自分の将棋に大きな影響があったのか」「ご主人のどんなところを一番好きになって結婚されたのか」の3つを聞いてみたいと、本人が自分の将棋のことで頭がいっぱいで見ていないここでコッソリ書いておく。
85手目:▲5三銀
盤側から見ていると、気合いをこめて駒を激しい打ち付ける動の中倉初段vsおっとりとした手つきで表情をほとんど変えない静の松尾初段、という図式が見て取れる。が、松尾初段も実は鋭い手を飛ばし虎視眈々と狙っている。人妻の心はどうにも読みにくい。
本局のテーマは”人妻”であったことが判明する。
しかし、人妻に限らず、女性の心は読みにくい。
将棋世界最新号、高橋呉郎さんの「将棋好き作家点描」の中で、渡辺淳一さんも、
「授業料を相当払ってきたけど、こればかりは……。ようやくわかったのは、女はわからないということだね」
と述べていたと書かれている。
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決勝 松尾香織女流初段-島井咲緒里女流初段戦 (銀杏記者Ver) (蝶結記者Ver)
日本初の、同一対局の二人の中継記者による並行中継。
全く個性の異なる二人の中継記者のコラボレーション(?)
同じ局面でそれぞれどのようなコメントだったのか。
39手目:▲8四歩
(銀杏記者)
「あら、同じ狙いができましたが、大丈夫かな」(堀口七段)
(蝶結記者)
府中市といえば、連想するのが大きな大きな東京競馬場。日本ダービーや天皇賞・秋、ジャパンカップなどのビッグレースが行われ、数々の名勝負の舞台となった。中山競馬場とともに日本の競馬を代表するコースだ。
41手目:▲8四歩
(銀杏記者)
「ポイントを取りましたね」(堀口七段)
(蝶結記者)
この2人が走り出せば、相振り飛車は必定。競馬では初めから走る距離が決まっているが、将棋ではスプリント戦なのか、長距離戦になるかは走ってみないとわからない。
46手目:△4二飛
(銀杏記者)
飛車の働きが大きく、先手優勢だ。
(蝶結記者)
しかし今日はどちらもスタートから手綱をしごいてどんどん押していく。今日は優勝者予想者クイズも行われている。投票者は、後半に余力を残さなくて大丈夫なのだろうか、とハラハラしているに違いない。
52手目:△4五歩
(銀杏記者)
「暴れていこうということですか」(中倉二段)
「そうですね。▲同歩なら△3三角から△5五角ということでしょう。悪い方は開き直れるんですね」(蝶結記者)
毎年5月の府中で行われる3歳牝馬三冠の第二関門オークス。昨年のこのレースで、アパパネとサンテミリオンが1着同着で2頭が優勝、というG1初の出来事があった。正直この決勝戦の両者に優勝をあげたいのはやまやまだが、どちらが勝ちか白黒つけるのが将棋の世界。ミリ単位のデッドヒートを期待しよう。
55手目:▲8六角
(銀杏記者)
大駒を働かせる。
△3三金は指させませんよ、という意味。ただし、ここは▲3二歩成があったようだ。
(蝶結記者)
やや話はそれるが、2007年にオークス3着、秋華賞で5着と好走を見せたラブカーナという馬がいた。女流棋界でラブカーナといえば、里見女流三冠だが、このたび奨励会編入試験を受けることが決まった。三冠を返上して戦いを挑むため歩みだすには、相当の覚悟が必要だったはず。男性に交じっての戦いは競馬の世界でも苦しいとされるが、その実績と実力をひっさげ新たな歴史を切り開いてもらいたいものだ。
57手目:▲7七桂
(銀杏記者)
▲6五桂のさばきを狙っている。
「全軍躍動ですね。見た目以上に差があります。1dayクイーンとはいえ、これを挽回するのは相当に大変です」(堀口七段)
「相振り飛車は怖いですね。何ということのない序盤だったと思ったのに」(中倉二段)(蝶結記者)
閑話休題。かなり先手のリードが明らかになってきた。双眼鏡でのぞかなくても、差が離れているようだ。
「これは先手の全軍躍動です」(堀口弘七段)
61手目:▲9三歩
(銀杏記者)
「指されてみると厳しいですね。9九香も使ってしまおうという読みですね。先手はまったく遊び駒がありません」(堀口七段)
(蝶結記者)
松尾初段はここから、リードを徐々に広げる作戦に出た。一気に決着を焦ると、最後のスパートで息切れしてしまう。巧みなレース運びだ。
64手目:△3二飛
(銀杏記者)
▲5四歩の筋を避け、△3四金を狙う。ただし、△3七歩などと攻められないのはつらいところ。
(蝶結記者)
東京競馬場に例えると、3コーナーの大ケヤキを過ぎてこれから第4コーナーに、といったところだろう。早くも勝負どころだ。
66手目:△5六歩
(銀杏記者)
島井初段はここから30秒将棋。
松尾初段は残り1分程度。(蝶結記者)
この手より島井初段は秒読みに。何もしないと馬がバテてとまってしまう。厳しい時間帯だ。
70手目:△4三金寄
(銀杏記者)
△6六角を狙っていて油断ならない。
(蝶結記者)
飛車筋を通して一瞬の脚を伸ばせるようにする。逆転劇は、長い直線の府中コースなら可能だ。
71手目:▲3三歩
(銀杏記者)
大盤では▲5五歩△同銀▲2二竜といった手段が示されていた。
(蝶結記者)
ここで両者秒読みに。さあ、いよいよ直線の叩き合いだ。
76手目:△1三角
(銀杏記者)
「勝負手ですね」(堀口七段)
「迷いますね」(中倉二段)(蝶結記者)
馬体を寄せて食い下がろうとするのは常套手段。叱咤激励して、粘りを引き起こす。
84手目:△5七金
(銀杏記者)
「後手は受けていてもしょうがありません」(堀口七段)
(蝶結記者)
高い駒でムチの連打。がんばれ、がんばれ、と奮い立たせようとする。
87手目:▲4三竜
(銀杏記者)
駒得しつつ、▲9二金以下の王手を狙っている。
(蝶結記者)
あと100。松尾初段は後ろを振り返りながら、まっすぐ追い出しにかかる。
93手目:▲9二金(松尾女流初段の勝ち)
(銀杏記者)
この手を見て、島井初段がすぐに投了。松尾初段が1day初優勝を決めた。
▲9二金以下は△同香▲同歩成△7一玉▲8二銀△6一玉▲5二竜△同玉▲4二飛△6一玉▲6二金までの詰み。終局時刻は16時50分。消費時間はともに15分。島井初段は▲8四歩△同歩▲8五歩の筋に気付いたが、松尾初段がそれを逃した。それに喜んで△5五歩と突いて、かえってまずいことになったと反省した。
38手目△5五歩では△5五角とする方が良かったようだ。(蝶結記者)
松尾初段、今喜びのゴールイン。1day初優勝の瞬間です。心の中で高らかなガッツポーズをかざして激しいスプリント戦を制した。終局時刻は16時52分。
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銀杏記者がローマ法王とすると蝶結記者は異教徒教祖、
銀杏記者が懐石料理とすると蝶結記者はかつめし、
銀杏記者が銀座とすると蝶結記者はアキハバラ
と5月1日の記事で書いたが、本当にそう思う。
このような面白い企画は、またやってほしいものだ。