羽生名人、森内九段とも、チェスの強豪として知られるが、二人はどのようにチェスを学んで上達していったのか。 近代将棋2004年6月号、湯川博士さんの名人戦第1局観戦記「果断の打開、吉と出る」より。
今年の名人戦は羽生・森内という宿命のライバル、その上、成田には大いなる縁がある。
一昨年の春、成田に住むチェス友の結婚式に、羽生・森内が招かれ揃って出席。珍しい光景に出席者は大喜び。チェスの好きな両雄だが、決して大会も遠征も一緒にはならない。
このチェス友は成田の隣・芝山町診療所の医師で、将棋も有段者。チェスの海外遠征によく行くが、羽生さんが急に海外に行くときでも、診療所を閉めて同行する熱烈な羽生親衛隊である。森内さんとも4、5回海外試合に行っている親しい仲。
私もこの医師も、羽生・森内の激突は楽しみだが、両方に勝たせてあげたいのが贅沢な悩みだ。
(中略)
私は羽生、森内とはチェスを通じて、10年ほど前からつきあいがある。羽生が先に始め、すぐ森内が続いた。 覚え方は対照的で、森内は片っ端からチェス本を漁り、信じられない量を吸収してゆく。羽生は1局面をとことん研究して、読みの鍛錬と感覚を磨く。ときには、世界のトップクラスのプレーヤーが驚嘆するような読み筋を見せたこともある。 こうして二人はあっという間に日本のトップクラス、世界ではプロクラスまで伸びていった。
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羽生名人、森内九段とも参加していたのが朝霞チェスクラブだった。
朝霞チェスクラブは、1990年にジャック・ピノーさんが活動を開始したチェスサークル。 金曜日の夜に朝霞の公民館などで例会が開かれた。
湯川博士さんも初期から活動に参加し、朝霞チェスクラブの機関誌「チェックメイト」の編集も行っていた。
朝霞チェスクラブのホームページの活動記録を見ると、羽生名人・森内九段の朝霞チェスクラブの大会での成績は次の通り。
1994年朝霞4周年記念チェス大会
Bクラス2位タイ 森内俊之
1998年新年チェス大会
Aクラス2位タイ 森内俊之
1998年クリスマスチェス大会
Aクラス2位タイ 森内俊之
1999年朝霞チェスサークル設立9周年記念大会
Aクラス優勝 森内俊之
2001年朝霞チェスサークル設立11周年記念大会
1位タイ 森内俊之
2001年クリスマスチェス大会
Aクラス優勝 羽生善治
2002年春のチェス大会
2位タイ 羽生善治 4位タイ 森内俊之
2002年朝霞チェスクラブ設立12周年記念大会
Aクラス1位 森内俊之
2003年クリスマスチェス大会
Aクラス1位 羽生善治
例会で羽生名人と森内九段が顔を合わせることはあったのかもしれないが、大会では、2002年春のチェス大会を除いて、まるで打ち合わせでもしていたかのように、二人が同時に出場することがなかった。
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再び近代将棋2004年6月号、湯川博士さんの名人戦第1局観戦記より。
まだまだ羽生粘りが見られると思っていたら、突如投了。 対局室に行って感想を聞いたが、森内の声が小さく羽生も無言で、聞き手の記者も遠慮がち。しかし20分ほど本譜と関係ない局面を突ついていたら、「え、どこ」「うん、ここでね」と友達口調になった。 成田対局は、いきなりワザが決まって終わった感があるが、一発で決まる真剣勝負の恐さを十分に味わった。
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羽生善治名人と森内俊之九段は31年来のライバルとはいえ、31年前の子供の頃から仲の良い関係だ。 チェスの大会や海外遠征には決して同タイミングで出場しなかった二人。 趣味のチェスでまで、本業のライバルと顔を合わせたくなかったのかもしれないし、そうするためにお互い二人で事前にスケジュール調整をしていたのかもしれないし、私の中での妄想は広がるばかりだ。