なぜ△8五飛戦法はアマチュアの間で指されないのか。
加藤一二三九段が語る加藤一二三九段ならではの戦法論。
近代将棋2004年7月号、中野隆義さんの朝日オープン第三局「恐るべき鳴動」より。
本局の前日、今月号より「新手物語」を連載する加藤一二三九段にお会いする機会があった。加藤は数日前に行われた名人戦七番勝負第二局のNHK衛星放送の解説約を務めていて、その将棋が大流行中の横歩取り中座流であったことから、よいチャンスと思い、大流行の理由をおたずねしてみた。
「そうですね。後手番ながら積極的に動いていけるというところに魅力があるのでしょう。私の考えでは、先手に最善でこられると苦しいのではないかと思っているのですが、勝ち味を持って戦えるというのは、作戦的に見て優れたものがあるといえるでしょう」
では、どうしてアマチュアの間では大流行どころかほとんど指されていないのでしょうか、の問いには、
「将棋の質がちょっと違うからでしょうか。アマチュアの方に人気がある振り飛車や矢倉に比べましてね。矢倉や振り飛車だと、少しやり損ねても局面をぼやかしたり、いろいろとテクニックを使って頑張れることが多いのですが、横歩取りの場合はそうしたテクニックを使いにくい将棋なのですね。ただ、考えようによれば、矢倉や振り飛車の方が難解であるとも言えるわけですよね。簡単な方が、指してみやすい意味があるのですから、アマチュアの方が指されないというのは、不思議であるともいえるかもしれませんね」と、よどみない答えが返ってきた。
今まで、わけのわからない戦法と思っていた横歩取り中座流が、簡単であるというのには驚いた。それならば、今度、一丁指してみようかなと思ったものである。
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将棋の神様が、将棋のあらゆる指し手を100%解明しようとしたら、矢倉や振り飛車のほうが難解なのかもしれないが、私のようなアマチュアは1%か2%くらいのところで楽しんでいるわけなので、少しやり損ねても誤魔化しが効く振り飛車のほうに愛着が湧くのは自然な流れだ。
「簡単な方が、指してみやすい意味があるのですから、アマチュアの方が指されないというのは、不思議であるともいえるかもしれませんね」という見方は、将棋を真摯に探求している加藤一二三九段ならではの捉え方といえる。
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同じ号で、団鬼六さんが「鬼六面白談義」で△8五飛戦法について語っている。
まさしく、団さん流の表現。
そして、当日の立会人の青野九段に棋譜の進行を解説してもらったがまたしても横歩取り。8五飛戦法、ああいう将棋は何とかならないものかと私は思うのである。誰が考案した戦法か知らないが、今の高段プロの将棋はあの横歩取り、8五飛戦法に統一されてきたような感じで、どうも私のような古典族には品のないようなチャンバラ将棋で好きになれない。矢倉や振飛車が将棋の基本だとはいわないが、どうもあの将棋は田舎やくざの喧嘩みたいで匕首の振りっこしているみたいで私は嫌いである。というのも最近、小学生の初段にあれでひっかき廻され、五十手ぐらいでひねり潰されたから愚痴っているようなものだが、やっぱりこの朝日オープン戦、第三局目も八十五手の短手数で終わらしてしまった。
(以下略)
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私が将棋の本を買いはじめた頃、横歩取り、腰掛銀、相掛かりは斜陽戦法と呼ばれていた。また、当時の入門書で横歩取りは、序盤早々▲3二飛成と飛車を切る戦法として紹介されていた。
私は子供のころ巨人ファンだった。巨人と飛車は同じくらい大好きだった。
子供時代の私が横歩取りを好きになるはずがない。
終盤の寄せで飛車を切る腰掛銀(木村定跡)まで嫌いだった。
このように育った子供は、間違いなく振飛車党になる。戦法名に”飛車”と付いているところが嬉しい。
飛車が好きだから、うまく捌いて飛車が成れると、それだけで将棋の目的の9割は達成したと思ってしまう。
だから、私は中盤まで7対3で優勢だったとしても終盤で敗れてしまうことが多い…