本当にあった禁断の盤外戦術(2)

反則ギリギリの作戦その2。

1996年刊行の田中寅彦九段「羽生必敗の法則」より。

 対局中に笑うなどというのは不謹慎な話だが、それは対局に集中している棋士の神経をそぐからだろう。もし、爆笑がおこる、などという状況が生まれれば、棋士に対する影響は大きい。

 だいぶ前のNHK杯で、こんなことがあった。その局は途中まで何事もなかったのだが、一方の某棋士が下半身がムズかゆくなってきたのか、急に立ち上がったのである。そして、ズボンのたわみをととのえるように、ズボンのベルトの所をおさえて、腰をブルッ、ブルッと震わせた。よく中年のオジサンがやるような、あれである。

 この”パフォーマンス”にたまらなく可笑しくなったのが、記録読み上げ人であるT女流棋士。視聴者もブラウン管越しに大爆笑しただろうが、記録読み上げ人とすれば、それをグッとこらえたいところ。しかし、彼女は耐え切れず、ついに大きな声で笑いだしたのだ。

 これはいまだに、「NHK杯爆笑事件」として、私たち棋士の記憶に残っている。その爆笑ムードは、当然その相手に影響を及ぼした。なんと腰振り棋士は、そのまま優勝し、その後も、ときたま同じしぐさが見受けられる。

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蛸島彰子女流五段が棋譜読み上げをやっていた時代の話だ。

それにしても、記録読み上げ人が声を出して笑ってしまったのだから、相当に可笑しかったのだろう。

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1990年頃の話。

中野で三人(男・男・女)で飲んで、「もう一軒行こう」、ということになり、タクシーで六本木へ向かっていた時のこと。

車中では普通の会話が交わされていたのだが、赤坂見附を通り過ぎる頃、いままで一言も言葉を発しなかった無愛想な運転手さんが、急に声をあげて笑い出した。

私たちはビックリして会話を止めた。

「急に笑って申し訳ありませんでした。お客さんたちの話があまりに可笑しかったから。ずっと笑うのを耐えていたんですが、我慢できなくなっちゃって・・・」、と運転手さん。

あの時の微妙な達成感は、今になっても忘れられない。