名人戦1日目の夜の鼻血

近代将棋2006年9月号、スカ太郎さんの「関東オモシロ日記」より。

11月10日の記事「名人戦のハプニング」の続き。

 実は森内名人手洗い閉じ込められ事件のあった日に、わたくちめもひとつの事件を起こしていたのだが、先月号では触れなかった。それは40歳に到達し、2児のパパとなっている男が起こした事件としては、あまりにも情けなくまた恥ずかしい事件だったからなのだが、このままでは「他人に厳しく自分に甘い」と言われてもしょうがないので、恥をしのんで事件の顛末を正直に告白いたします。

 それは名人戦第5局、1日目が終わった指し掛けの晩のことであった。

 適度に酒も入った会食の終わりごろ、関係者で歓談していたところに出てきたのが、谷川浩司九段が講師を務めているNHK将棋講座の話題であった。

 ご覧になられた読者の方も多かったと思うのだが、谷川九段が医者に、アシスタントの島井咲緒里女流初段が看護士さんに扮し、将棋のクリニックを行うという企画が放映されたのである。これが大好評だった。

 以下はビールと酒がほどよく脳内を駆け巡っている状態での、一部の関係者によるバカ話である。

「やっぱり男は、やさしいナースに憧れがあるんですよ」

「こうなると、次の企画に何を持ってくるかが楽しみですね」

「女流棋士との親睦会なんかでは、いろいろなコスチュームで将棋ファンにサービスするなんて企画も出てくるかもしれないですね」

「ナース、バスガイド、女性教師、婦警、バニーガールなんていうのもありでしょ(笑)」

「女性教師は○○さんとか××さんがはまり役のような気がするないー。婦警さんは△△さんかなぁ」

 とまあ、そんなバカ話を繰り広げている最中に、オイラは異変を感じたのである。

(あれ、鼻水かな・・・)

 そのころのオイラは数日前から風邪気味で、少し喉が痛かった。だから鼻水が出てきたと感じたときには、まあ風邪だからしょうがないかという気持ちで、おしぼりを鼻にあてがったのだった。

 軽く鼻を押さえた後に、赤く染まったおしぼりを見たオイラは焦りまくることになる。

 にゃんとそれは鼻水ではなく、鼻血だったのだ。

 鼻血が出たのは数年ぶりのことであったが、なんという間の悪いタイミングでの鼻血だろう、というのがそのときのオイラの率直な気持ちであった。

 何といっても「ナース、バスガイド、女性教師、婦警、バニーガール」というコスチュームの話をしている最中である。これではまるで、オイラが「ナース、バスガイド、女性教師、婦警、バニーガール」というコスチュームを想像し、コーフンして鼻血を出してしまったみたいではにゃいですか~。

 オイラの前方に座っていた北尾まどか女流初段が、「あ、スカピョンが鼻血を出している」というオイラの異変に気づいた。しかし、心優しい北尾女流初段は、気づいて気づかぬふりをしてくれていたという。

 再びおしぼりで鼻を押さえつつ、しばらく「どうしよう」と迷ったオイラだったが、そのうち、明らかに変であることが隠せない雰囲気となってきたので、オイラは「鼻血がでちゃいました」と自白することになった。

 ささやかにもれるクスクス笑い。だれも何も突っ込んでくれなかったが、「スカピョンはいったいどの女流棋士のコスチュームを想像してコーフンしてしまったのだろう」ということを各人が頭の中で想像し、それらが無言の中で交錯しているような場の雰囲気になった。

「違う、違うわいぜ。オイラ、コーフンして鼻血出したんじゃないがいちゃ~」と思わず地の富山弁モロ出しにて声を大にしてアピールしたかったが、だれも何も突っ込んでくれない状況下において言い訳をするのはかえって怪しまれるだけとなることが多いので、結局こちらとしても黙って笑っているよりないという展開になった。

 こうしてこの事件の顛末は「スカピョンが女流棋士のコスチューム話中にコーフンして鼻血を出した」という結論にて一件落着となってしまったのだ。

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バトルロイヤル風間さんのイラストでは、

ナース・・・島井咲緒里女流初段

バスガイド・・・矢内理絵子女流四段

女性教師・・・千葉涼子女流四段

婦警・・・石橋幸緒女流四段

バニーガール・・・北尾まどか女流初段

になっている。

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ナースといえば思い出すことがある。

都内の大きな病院に勤務する看護婦さんから、昭和の終わりごろに聞いた話。

「若くて格好いい患者さんが入院してくると、主任とか大先輩が『私が担当する』と言って進んで担当になっちゃうんです。わたしたちが担当するのはお年寄りとかそうではない患者さんばかり・・・」

「え、本当なの?」

「本当に本当」

その女性は青森出身で、かなりの美人だった。

その時、私は入院してみたいと強く思った。

主任クラスが担当になってくれれば喜ばしいことだし、このような若手看護婦さんが担当になってくれれば”格好よく思われていない”という心理的ダメージは大きいものの、それはそれで嬉しい。

しかし、入院することなく現在に至っている。

昭和の頃の話だし、他の病院では違うのかもしれないので、あくまで一般的なことではないと思うが・・・