将棋世界1996年9月号グラビア、第67期棋聖戦第3局「陣屋決戦は、羽生に凱歌 三浦の作戦、またも生きず」より。
昼休後の再開時刻は1時だが8分前に既に三浦は対局室に戻り臨戦態勢に入る。身体を小刻みに揺すり扇子を動かし読み耽る。「どこか身体を休めるところはありますか」と記録係に尋ねる三浦。慣れないタイトル戦のせいか対局中はやや神経質そうな感もあるが、盤上没我、ファイティングポーズに変化はない。
やがて羽生棋聖が入室、そんな挑戦者の姿にチラッと視線を落とす。「では1時ですのでおねがいします」の立会人・佐伯昌優八段の声の直後に三浦の△7三桂が指された。担当記者の「夕食でございますけど・・・」の質問に羽生は「うなぎはダメですか?」。
控え室で取材陣のほとんどがうなぎだったのでそれに影響されたのか。あるいは局面は本格的な矢倉の持久戦模様だが、うなぎで夜戦に備えようという意か。取材控え室ではそんな冗談も出た。三浦は鍋焼きうどんを注文。この会話のしばらく後、羽生は後手の端攻め志向に対して▲2五歩と飛車先の歩をまた伸ばした。
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当時の棋聖戦は持ち時間が5時間。夕食休憩もあった時代。
「うなぎはダメですか?」と聞くということは、うな重が対局用メニューに入っていなかったものと思われる。
この後、羽生二冠は陣屋での対局の際には、うな重を連投することになる。
将棋棋士の食事とおやつによると、以下の通り。
2000年棋聖戦○ 対谷川浩司九段 うなぎ
2000年王位戦● 対谷川浩司九段 うなぎ
2000年竜王戦● 対藤井猛竜王 うなぎ
2001年王将戦○ 対谷川浩司九段 うなぎ
2002年竜王戦○ 対阿部隆八段 うなぎ
現在の陣屋の対局用昼食メニューは、
天麩羅そば(温)
天麩羅うどん(温)
天ざるそば(冷)
天ざるうどん(冷)
天麩羅重
かつ重
と、うな重は含まれていない。
当時は、うなぎを得意としていた調理師がいたのかもしれない。
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裏メニューや賄いメニューが人気になることがある。
そういう意味では、陣屋のカレーライスは裏メニューの代表例だ。
ファストフード店にも裏メニューは存在するという。→有名チェーン店の裏メニューまとめ
賄いメニューは、スタッフのために店で提供されている食事。
私も、池尻大橋にあった酒場で、賄い料理である、カレーライス、ベーコンエッグをよく頼んでいたことがある。ニンニクと一緒に炒められたベーコンエッグは絶妙だった。
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馴染みの店に食材を持ち込んで、指定の料理を作ってもらうという「特別メニュー」というジャンルもある。
ママが一人でやっている酒場へ豚バラ肉を持ち込んで、生姜焼などを作ってもらうような手筋。
マグロ名人戦で獲得した大量のマグロを、知り合いの店へ持ち込み、料理してもらうのも、典型的な事例のひとつだ。
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2010年の王座戦で、挑戦者の藤井猛九段は陣屋で「チキンカレーうどん」という特別合体裏メニューを注文している。
2009年の名人戦では、郷田真隆九段が椿山荘でメニュー外の親子丼を注文している。
メニュー外の注文は、昼食予想的には困るのだが、見ていてとても楽しいものだ。