初めて公開された時の獲得賞金・対局料ベスト10

将棋世界1991年1月号、「将棋界マネーアラカルト」より。

 棋士の収入は、いったいどのぐらいあるのか。将棋ファンばかりでなく一般の方でも興味を抱く話題であろう。

 さきごろ新聞の社会面が、囲碁の小林光一棋聖の獲得賞金額が1億円に達したニュースを報道した。今の時代は、収入の高さがその世界と人の価値を示す基準なのだ。

 これまでの将棋界は、お金のことはタブー視されていた。しかしニューヒーローが続々と生まれ、竜王戦は賞金、対局料を明示するなど、時代は確実に変わりつつある。

 そこで本誌は棋士の獲得賞金、対局料の公開にふみきった。

 本邦初の快挙である。下表は昨年の資料を元にしたベスト10で、金額はいずれも推定である。(括弧内は前年度の主な成績)

  1. 谷川浩司王位 6,069万円(名人防衛、王位奪取、天王戦・日本シリーズ優勝、全日プロ準優勝)
  2. 中原誠名人 4,773万円(棋聖2期・王座防衛、NHK杯、天王戦準優勝) 
  3. 島朗七段 4,372万円(竜王獲得、日本シリーズ準優勝、王将挑戦)
  4. 米長邦雄王将 3,147万円(竜王戦登場、名人挑戦)
  5. 南芳一棋王 2,996万円(棋聖挑戦、王将防衛、棋王奪取、早指し戦準優勝)
  6. 森雞二九段 2,038万円(王位失冠、早指し戦優勝)
  7. 羽生善治竜王 1,869万円(早指し新鋭戦準優勝、若獅子戦優勝、NHK杯優勝)
  8. 大山康晴十五世名人 1,808万円
  9. 青野照市八段 1,706万円(王座挑戦、竜王戦1組昇級)
  10. 塚田泰明八段 1,695万円

 トップは谷川だ。昨年は名人の第一人者であり、王位も獲得した。当然の順位といえよう。6,000万円を超す収入はどうか。一般人の感覚ではため息が出るが、他のジャンルのトップと比較すると、決して多い数字ではない。毎年春の長者番付をみればよくわかる。

 2位から6位まではタイトル保持者が並ぶ。島は竜王を獲得して、一気に3位に入った。4位の米長は無冠だが、竜王戦の対局料の分が多かった。

 昨年暮れに竜王になった羽生は7位。3,000万円の賞金は今年度にまわされた。今年は三本の指に入るだろう。

 8位から20位までは、順位戦のクラスの高いA、B1の棋士が大半を占める。順位戦のクラス手当の割合は何といっても大きい。そのなかに、朝日の全日プロで優勝して800万円を獲得した森内が、1,274万円で17位に入っている。

(以下略)

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将棋マガジン1990年11月号グラビアより。撮影は中野英伴さん。

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獲得賞金・対局料ベスト10が初めて公表された記事。

公表に踏み切った背景としては、

  • 囲碁の小林光一棋聖の獲得賞金額が1億円に達したニュースが報じられたこと。
  • 将棋界にニューヒーローが続々と誕生していること。
  • 竜王戦の賞金、対局料が明示されたこと。

の3つが重なったからということがわかる。

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一概に比較はできないが、この10年後の1999年、更に10年後の2009年、そして昨年の、1位獲得金額、10位獲得金額、トップ10合計金額は次の通り。

1位 10位 トップ10合計
1989年 6,069 1,695 30,473
1999年 7,872 2,071 45,901
2009年 11,278 2,271 40,919
2018年 7,552 2,189 38,203

対局料の規定が大幅に変わったり(1989年→1999年)、給料制ではなくなったり(2009年→2018年)、いろいろな変化があったので、トップ10合計金額は、あまり参考にならないと思う。

ただ、この中では1999年が獲得額上位者にとって相対的に良い時代だったと見ることもできそうだ。