「佐藤康光みたいに、こんなところで2時間も考えられないよ」

将棋マガジン1991年2月号、河口俊彦六段(当時)の「対局日誌」より。

 C級1組順位戦の6回戦が行われていて、対局室は朝から緊迫の気がみなぎっている。これはオーバーな表現でなく、今日あたり大勢が色わけされる山場なのである。

 そのせっかくの雰囲気をこわすようだが、私の自慢話を一つ。

 室岡との対戦で1図のようになった。

 初級講座によく出る形で、△4五角はわるいということになっている。歩を取って角が成れれば、こんなうまい話はない。だから成立するはずがないのである。

1図からの指し手
▲8五角△2七角成▲6三角成△4五馬(2図)

 ▲8五角が受けの手筋。△6二銀と受ければ▲3八銀と上がり、角の働きは先手が勝る、という理屈だ。

 しかし、と私が考えましたね。▲6三角成は好位置、△2七角成が働きのない位置で、成りっこは後手が損というのであれば、好位置は動くたびにわるくなり、わるい位置は動けば好位置に変わるのではないか、と。

 で、成り合いから△4五馬と引いた2図は、後手の馬は中央を抑える絶好点。先手の馬は、次に△5二金右▲8五馬となって働きがわるい。

 実戦は2図から▲6八金△5二金右▲8五馬と進んで、後手の作戦勝ちとなった。このまま進むと、先手は3、4筋の歩が突けず、駒組みの進展がないからである。

 局後室岡が言うには「▲6八金と上がるときいやな予感がしたんだ。先の見通しが立たないものね。▲2八飛と戻さなけりゃならんと思ったが、佐藤康光みたいに、こんなところで2時間も考えられないよ」

 それから、「いや考えるべきかな」「やっぱり出来ないな」とブツブツ言っている。

 言わんとするところは、2図から▲2八飛と回り、△3二金▲7八金なら互角の駒組み。難しいのは、▲2八飛に△6六歩で、以下どうなるか、私も考えてない。一発勝負の順位戦で、そんな危ないことは指せるはずがないと思っていた。

 局後の感想戦でそのやりとりを見ていた神谷が「これ本当に考えてあったんですか?」と言うから、うなずいたら、呆れた、という顔だった。そりゃ私だって将棋を考えることもあるさ。

(以下略)

* * * * *

1図は、振り飛車党にとっては非常に気になる局面。

これで後手が良くなるのであれば、かなり衝撃的なことになる。

そこで、コンピュータソフトにかけてみた。

すると、10数分検討をさせた結果、

1図から▲7四歩△同歩▲同飛△3三桂▲7七銀という手順がソフトの推奨手順。(形勢は互角)

ほとんど意味がわからないし、ソフトの結果が正しいとも限らない。

悩みはどんどん深まるばかり……