将棋マガジン1994年5月号、駒野茂さんの「スポットライト奨励会」より。
まれに見る大混戦
3月3日、東京将棋会館4階の特別対局室。この一室で行われた最終局が全局終わった時、筆者が北浜に、「明日は予定ありますか?もしなければ写真撮影をしたいのですが」と言うと、
「えっ、どうしてですか?」
と理由が分からないような返事が返って来た。
「上がったんだよ、四段に」
「でも、僕負けましたけど」
その場で説明しても通じそうになかったので幹事のいる部屋に連れて行き、成績表を見ながら星勘定してみせた。それでも半信半疑の様子。
そんな彼を見て幹事が、
「本当に上がったんだよ、おめでとう」
この言葉を聞いて、ようやく北浜の顔がほころんだのだった。
今回の三段リーグはまれに見る大混戦。14戦目までは12勝2敗の鈴木(大介三段)がすんなり決まるかと思いきや、何と!最終局まで誰一人決まらないという状況になったのだ。
17戦目が終了した時点で、北浜、鈴木、窪田、北島の4人の争いに。そして、結果は北浜、鈴木、北島と揃って敗れたため、この瞬間に北浜の昇段が決まったのである。
本人にしてみれば、幸運というか信じられない結果であったろう。
残る一つのイスは窪田-木村(一基三段)戦次第。窪田か鈴木か。
この一戦は5階で行われ、千日手指し直しのために一局だけ進行が遅れていた。
両者秒読みになる大熱戦。窪田良し、木村逆転か、と局面が動く中、最後に冷静さを取り戻したのが窪田。
終局直後に窪田が筆者の顔をまじまじと見るので、「おめでとう」と言ったら、「やった!」とガッツポーズ。そのあとに、「あっ、失礼しました」と対戦相手に気遣い。この場面が、妙に印象に残った。
鈴木は次点。日頃陽気な彼も、この時ばかりは泣きだしそうだった。
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この対局が行われた日の朝の時点では、
2位の北島忠雄三段が11勝5敗・・・2位
4位の北浜健介三段が11勝5敗・・・3位
9位の鈴木大介三段が12勝4敗・・・1位
13位の窪田義行三段が11勝5敗・・・4位
最終戦直前は、
2位の北島忠雄三段が11勝6敗・・・4位
4位の北浜健介三段が12勝5敗・・・1位
9位の鈴木大介三段が12勝5敗・・・2位
13位の窪田義行三段が12勝5敗・・・3位
最終戦が終わって、
2位の北島忠雄三段が11勝7敗
4位の北浜健介三段が12勝6敗 ◎
9位の鈴木大介三段が12勝6敗
13位の窪田義行三段が13勝5敗 ◎
となる。
胸が締め付けられるような展開。
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窪田義行三段が、終局直後に駒野茂さんの顔をまじまじと見た、というのは、とても気持ちがわかる。
21歳、三段リーグ6回目での昇段。
北浜健介三段は、昇段と早稲田大学入学を、ほぼ同時期に決めた形となった。
18歳、三段リーグ2回目での昇段。
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鈴木大介三段は、この半年後に四段になる。
北島忠雄三段は、その更に半年後、29歳の時に四段に昇段することになる。