第24回将棋ペンクラブ大賞贈呈式の一日(前編)

17:30

曇りと豪雨が繰り返される異国のような天気も、夕方には晴れに変わっていた。

17:50

会場へ到着。

17:55

控え室をのぞくと、ブルーの阪神タイガースシャツを着たとても愛嬌のある雰囲気の男性が木村晋介会長と話をしている。誰かなとよく見てみると、受賞者の佐藤圭司さん。

指導対局を担当する大庭美夏女流1級も和服で登場。

18:05

村山慈明六段が来場。

そういえば、昨年の将棋ペンクラブ交流会を行なっている部屋の隣(特別対局室)で、王位戦白組プレーオフ 羽生善治名人-村山慈明五段戦の対局があったことを思い出す。

18:10

橋本長道さんが集英社の編集者とともに来場。

橋本さんが受賞した小説すばる新人賞は、数多くある文学新人賞の中でも最もメジャーとされる賞だ。

二人の編集者は、テレビドラマから抜けだしてきたような格好いい男性と素敵な女性。

18:15

谷川浩司九段が来場。間もなく米長邦雄永世棋聖、広瀬章人七段も来場。

18:16

青野照市九段来場。

18:18

神谷広志七段来場。

18:20

控え室の中は超豪華。

控え室の入り口に立っていても、オーラが中から飛び出してくるような感じ。

18:25

賞状、賞金、副賞は、木村晋介会長から受賞者へ手渡されることになっている。

木村会長には女性(昨年でいえば加賀さやかさん)が賞状・賞金・副賞を手渡す。

例年、私は、その女性に賞状・賞金・副賞を手渡す役。

今年は加賀さやかさんが体調不良で欠席のため、会場を見渡して後藤元気さんの奥様にお願いすることにする。

「後藤さん、奥様お借りします」

「どうぞどうぞ」

後藤元気さんの奥様は昭和のアイドル系の雰囲気。

18:28

三浦弘行八段、木村一基八段、西川慶ニ七段、上野裕和五段が来場。

18:30

贈呈式が始まる。

はじめに、最終選考委員の西上心太さんから審査員講評。

18:40

表彰式。

木村晋介将棋ペンクラブ会長から受賞者へ賞状と賞金と副賞が手渡される。

受賞者や作品へ思いを伝えながら賞状を授与する方式が木村流。

18:50

受賞者の方々からのスピーチ。

観戦記部門優秀賞の佐藤圭司さん

佐藤さんは朝日新聞大阪本社の記者。

先程の阪神タイガースシャツから背広に着替えられている。

佐藤さんの話の中で特に印象が深かったのは、故・池崎一記さんや中平邦彦さんのような観戦記者を目指したいということ。

私はパーティーの時に、佐藤さんは関西の棋士からはもちろんのこと、関東の棋士からもとても慕われていると強く感じた。

木村一基八段も佐藤さんのお祝いに駆けつけている。

池崎さんが書いていた「福島村日記」のような記事を、佐藤さんにもぜひ書いてほしいと思った。

文芸部門大賞の米長邦雄永世棋聖

最近は、対外的な公務を谷川専務理事に任せることが多くなったが、この贈呈式には自らが出なければと思い出席したとのお話に、会場から割れんばかりの拍手。

△6二玉に関わる話に関連し、来年行われるプロ棋士対コンピュータソフトの五対五の対戦にも話が及んだ。

「人と指す時のような普通の指し方では危ない。それぞれのソフトの弱点を突くような指し方をする必要がある」

文芸部門大賞の橋本長道さん

奨励会をやめてから作家になるまでのことなど。

途中、感極まって、短い時間、言葉が出なくなったシーンもあり、橋本さんの思いが、より強く伝わってきた。

技術部門大賞の村山慈明六段

「自分はスピーチが苦手なので『スピーチの急所』という本があれば今すぐにでも買いたい」、という出だしに、会場は爆笑。

いままで多くの最新定跡の本を書いてきたが、一つの戦法だけを掘り下げて書いたのは、受賞作「ゴキゲン中飛車の急所」が最初。

本書は、村山六段が昔愛読した島朗九段著「角換わり腰掛け銀研究」の構成を参考に執筆したとの話もあった。

時々、ボロボロになったスピーチ原稿を見ながら話していたところが、とても微笑ましかった。

技術部門優秀賞の広瀬章人七段

広瀬七段は四間飛車穴熊関連のテーマで二度目の受賞。

最近は、戦法の幅を広める必要も出てきており、四間飛車穴熊一本というわけにもいかなくなってきたが、それでも四間飛車穴熊はエースのピッチャーのような位置付けで、ここぞという時の戦法として使いたい、などのお話があった。

特別賞の谷川浩司九段

「月下推敲」の文字通り、10枚の駒からなる詰将棋を、もう1枚駒が減らせないかと推敲を重ねていく時のお話など。

そして、スピーチの最後に、谷川九段から各受賞者へのメッセージがあった。

「佐藤さんは、関西で最も熱心で情熱を持った記者です」

佐藤さんはこの言葉に感激して、目を何度も拭った。

佐藤さんが皆から好かれる理由が、とても強く実感できた。

「編集者が執筆者に早く書くよう催促するのが普通の姿ですが、米長会長の本は、執筆者が編集者に早く本を出版するようお尻を叩く形で世に出ました」

『われ敗れたり』は異例のスピード出版だった。

「橋本さんとは研究会で指したことはありましたか?」

橋本さんは井上慶太九段門下なので、谷川九段から見れば甥。

1局だけ指したことがあるということだった。

「村山さんと広瀬さんの今回の受賞作はまだ読んでいませんので、研究のためにもぜひ読んでみようと思います」

谷川九段は、まさに千両役者のようだった。

(つづく)