近藤正和五段(当時)「やっぱり佐藤さん(康光王将)が使ってくれたのが良かったんでしょうね」

将棋世界2002年6月号、故・真部一男九段の「将棋論考」より。

 4月15日、4階のシルバーシートに坐っていたら、エレベータからニコニコ顔の近藤正和五段登場。

 早速「オメデトウ」と声をかけた。

 彼は将棋大賞の中でも名誉ある「升田幸三賞」を受賞したのだ。

 どうやらその日は授賞式で、階下で式を済ませて立ち寄ったようだ。

 ナマモノだから機嫌が良い。私の横に坐ると「やっぱり佐藤さん(康光王将)が使ってくれたのが良かったんでしょうね」と云い、「何某君がやってもダメだったんですよ」と嬉しそうだ。

 まあそういうこともあるかもしれないが、この道ひと筋6年余り、彼は中飛車以外は「その他の戦型」しか指していないそうで、そのひたむきさも戦法の優秀性と相俟って評価され、今回の授賞となったのでろう。

 近藤は新四段の頃、勝ちまくって「金が天から降るようだ」なんて石川五右衛門みたいな見栄を切っていたが、その後いま一つであった。今回の受賞で形が示され、ゴキゲン君のゴキゲン中飛車一層の工夫を見たいものである。

(以下略)

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昨日の記事にもあったように、ゴキゲン中飛車の出だしは、古くは故・富沢幹雄八段が、そして1990年代初頭には木下浩一六段や有森浩三七段が指していた。

そして、その時代に奨励会員だった近藤正和六段は、大山-升田の棋譜を並べ、独自の中飛車を開発した。

ゴキゲン中飛車は、当時の将棋世界編集長だった大崎善生さんによる命名ということだ。

新戦法・新手は、その開発者がその戦法で多くの勝ち星をあげ、かつ他の棋士も指すようになって、はじめて◯◯流と呼ばれるようになる。

採用する棋士がタイトル保持者であったりA級棋士であれば、そのインパクトは更に強くなる。

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佐藤康光王将(当時)は、将棋世界の同じ号で、「我が将棋感覚は可笑しいのか?」という記事を書いている。

佐藤康光王将(当時)「我が将棋感覚は可笑しいのか?」

佐藤康光王将が、若手棋士が自分の新戦法や作戦を誰一人真似してくれないことを嘆いている名文だ。

同じ号の別の記事に、「やっぱり佐藤さん(康光王将)が使ってくれたのが良かったんでしょうね」という言葉が載るところが、なかなか微妙かつ絶妙と言える。