窪田義行六段「敬仰申し上げる兄弟子相手でもある堂々の舞台で、先ずは『恋の藤井システム(先手版)』お披露目の運びとなりました」

窪田義行六段からブログに非常に貴重なコメントをいただいた。

窪田六段は、一昨日の順位戦B級2組2回戦で兄弟子の森下卓九段に勝っている。

昨今も度々お取り上げ下さり、嬉し恥ずかしながら諸エントリー共々感慨深く拝見しております。
自己亀レスで恐縮至極ですが、敬仰申し上げる兄弟子相手でもある堂々の舞台で、先ずは『恋の藤井システム(先手版)』お披露目の運びとなりました。
お手空きの折りにご俎上に上げて下されば何よりに思いますので、取り急ぎ厚かましくもご報告致します。

『恋の藤井システム』、今年の3月から5月にかけて女性アイドルグループである乃木坂46のメンバーのブログにたびたび書かれていた単語で、一時は新曲のタイトルではないかと思われていたほど。実際には、文化放送の『乃木坂46の「の」』(担当している放送作家が将棋好きで”恋の藤井システム”と書かれたTシャツをよく着ている)に出演することを隠語的に表現していたということが後になって明らかになっている。

窪田義行六段からの5月のコメントを振り返ってみたい。

ご無沙汰しております。
1月の新年会ではお世話になりかつお騒がせしました。
高橋道雄九段の[将棋世界]’13/01号[名局セレクション]での端書きが少し気になっていた内に事態が急展開し、ただただ驚嘆しかつ興味深く見守っています。

最近は[将棋アンテナ 棒銀くん]で情報収集していますが、[人気]カテゴリーに度々貴ウェブログのエントリーが上り、嬉しく思います。
[「恋の藤井システム」]エントリーに惹かれて早速拝見しました。
システムに関して、到底気楽に歌い踊れる現状ではないのが心配ですが、それはそれでインパクトのある歌題ですね。
対抗系居飛車の持久戦組み換え志向のみを想定するか、急戦策のみをそうするか、急戦模様からの堅陣組み換え志向をそうするかでかなり歌詞や曲調が変わりそうです。
或いは大山先生流のご識見が窺えるか、升田先生風のご卓見がほの見えるか……

かく言う私も刺激を受けたせいか、後手番藤井システム「金急戦(窪田式表記)」で少々の工夫に思い至りました。
対局は少し先ですので大いに検討し、ご覧に入れられればと思います。

それでは、「恋の続報」に限らず今後とも楽しみにしております。

窪田六段は、”恋の藤井システム”からインスピレーションを受け、それを将棋で具現化したのが、一昨日の順位戦の『恋の藤井システム(先手版)』だったのだ。

『恋の藤井システム(先手版)』がどのような作戦なのかを見てみたい。

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1図は一昨日の窪田義行六段-森下卓九段戦の序盤、窪田六段が▲4八玉とした局面。

今までの藤井システムは、居飛穴攻略を視点に入れて▲1六歩(あるいは▲1六歩~▲1五歩)と端歩を突くのが当然とされていたのだが、『恋の藤井システム(先手版)』は端歩を省略して振り飛車本来の駒組みを急ぐという方針だ。

藤井システムに対する居飛車側の対抗策は、居飛穴にするか急戦かの態度をぎりぎりまで保留し、藤井システム側の動きによってどちらの駒組みにするかを決めるというものだが、この場合は、端歩が突かれていないので、後手は心理的にも居飛穴にしやすい。

『恋の藤井システム(先手版)』は、居飛車側の態度を早く決めさせるという狙いを持っているようだ。

デートの場所をお台場か六本木かで迷っている彼、それに苛立った女性が、「お台場に行かないようじゃ男じゃないわよ」と迫っているような図式。

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2図は藤井システムおなじみの局面に近い局面。

端歩が突いてあれば角が逃げた後の▲4五歩で”藤井システム大成功の図”となるのだが、ここでは△1五角と王手で逃げられる。

それに対し▲3九玉と玉を安全地帯に移して、それから▲4五歩と攻めていく。そして▲1六歩から角を追い、▲1五歩(3図)と伸ばし、居飛穴攻略の基礎土台ができあがる。

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△4六角が怖いが、これには▲1六香として大丈夫という大胆不敵な読み。

この後、4筋に双方の戦力が集結し、非常に見応えのある応酬が続けられる。

初めから端歩を突いているわけではないので、居飛穴攻略には多少の苦労は伴うが、『恋の藤井システム(先手版)』が狙い通り成功した形だ。

窪田六段からは5月に次のようなコメントもいただいている。

当該語句ですが、遠い昔に拙著で類型に関して「金(銀)急戦」と命名した次第です。
具体的には、▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△3二銀▲5六歩△4二飛▲6八玉△7二銀▲7八玉と▲居飛車片船囲い?対△振飛車藤井システムに進みます。
そこで、△4三銀なら銀急戦・△5二金左なら金急戦となります。
以下▲5八金右に、△5二金左(△4三銀)と金銀を連結させるのは右翼の手回しが遅れるので後手番に不相応とされています。
先手がどの様な作戦で対抗するにせよ、3二銀-5二金左か4三銀-4一金の分裂型で推移して行くでしょう。
片や、先手システムなら6七銀-5八金左の連結型に合流するのが定番ですので、複数の呼称が発生する余地はない訳です。

振飛車党としては余り左金に過酷な労働を強いたくありませんが、盤上でだけは『当時は仕方がなかった』という事もあるかも知れません……

『恋の藤井システム(先手版)』は、端歩を省略して左翼の手回しを急ぐ作戦。

『恋の藤井システム(後手版)』も同様な思想なのか、あるいは別の発想によるものなのか。

『恋の藤井システム(先手版)』からも目が離せないし、『恋の藤井システム(後手版)』の登場も待ち遠しい。

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順位戦の中継(野辺記者が担当)は、窪田六段らしいコメントで締めくくられている。

窪田「大先輩である兄弟子との再戦でもあり、二〇三高地攻略に臨んだ乃木大将のごとく苦心惨憺の将棋でした。乃木坂46にインスパイアされた手法でもあり、語呂が語呂だけにこれぐらいの苦労をすることもあるかなと勝手読みしています(笑)」