友情

将棋世界1992年10月号、先崎学五段(当時)の「先チャンにおまかせ夏休み特別企画 夏・休・み Q&A」より。

先崎学五段が将棋世界編集部からの質問に答える。

Q.自分の性格を一言でいうと?

A.短気。

Q.怒るとどうなる?

A.郷田真隆に言わせると、僕は、完全といってもいいくらい気が短いようである。事実、すぐにカッとくる(彼もそうとうなものだけどね)。怒ったところ、気持ちが乱れたところを見られるのは、非常に恥ずかしいし、得することは何一つないといえるだろう。したがって、怒ったときは、静かにすることにしている。口を開かずにじっとしている。話題を変えて、あるいは耳をふさぐようにつとめている。なかなかそうもいかないのだが。

(中略)

Q.今までで一番嬉しかったことは?

A.四段に上がったこと。自分以外ならば、郷田が四段に昇ったこと。

(中略)

Q.ウラビデオの所有本数は?

A.なんちゅう質問だ。まあいいや、ないよ。

Q.好きなタレントは?

A.蓮舫。森口博子。あと、タレントではないが、水泳の長崎宏子選手に、小学生の頃から憧れている。

(以下略)

将棋世界1992年11月号、先崎学五段(当時)の「先チャンにおまかせ」より。

 さて、本来ならば、ここから将棋の話になるのであるだが、今回は省略させていただく。外に書きたいことができたからである。

 今、9月9日午後6時。一報あり。郷田新王位が誕生したというはなしが飛び込んできた。昼過ぎにちょっと悪いという連絡をうけ、ハラハラしていただけに嬉しさもひとしおである。

 正直いって、三種類に嬉しさがわかれる。

 その一。親しい友人としての素直な喜び。一人の人間としての喜び。

 その二。彼がタイトルを取れるのだから俺だって取れるはずだという喜び。一人のプレーヤーとしての喜び。

 その三。これで1年間は、腹が減ることはないという喜び。一人の酒好き飯好きとしての喜び。

 彼は、世の中のことをしらない子供っぽいところもあるが(同い年の俺がいうのも変だが)、根は優しくて、いい青年である。彼のことを一番良く知る人間として、これだけは保証できる。みなさんでよろしくもり立ててあげてください。

 郷田が王位になって、なら俺だってと思った瞬間、心が軽くなって、よし、という気になって来た。しばらくは将棋に専念というわけではないが、今年に入ってから絶不調(編集部注・それでも9勝5敗です)の僕なりに、考えて、区切りもいいし、来月号をもって最終回としたいと思う。最終回は、きっと編集部の方で素敵な、そして過激な企画を考えてくれるはずである。乞御期待。

将棋世界1992年12月号、先崎学五段(当時)の「先チャンにおまかせ」より。

 先月号の終わりに、最終回は、編集部の方で、素敵な、そして過激な企画を考えてくれるだろうと書いた。書いていて、胸がドキドキした。1年間、カール・ルイスのような速い締切と悪戦苦闘したんだから、きっち、とっても素敵で過激なご褒美があるに違いない。憧れの宮沢りえちゃんと一局御指南どうぞ、なんてことになるかもしれない。うわっ、どうしよう。熱い日だったらいいな。りえちゃん薄着で盤の前に座らないかな。自陣で戦って・・・5九の駒を取るときブラジャーが見えちゃったらどうしよう。意気投合しちゃったりして、そしてもし夜の一局御指南なんてなったりして、うひゃひゃ、うひゃうひゃ。

 いや、変態オバQの名をほしいままにするヨシオ編集長のことだから、SMクラブ体験将棋ツアーなんていうのもあるぞ。マゾ役は痛そうだから責める方でいこう。こらっ、このシロブタッ、こんな玉も詰められないのか、このノータリン、御主人様の・・・。なんて。

 ちょっと真面目になって、金丸信、将棋で勝負だ!とかジェームス三木夫妻相手に二面指しなんてどうだろう。自分ではなく、人に何かやらせて観戦記を書くのもいいな。郷田、一晩ホストに挑戦。神吉相撲部屋に入門。新婚谷川邸に侵入。ああっどれもこれも素敵で過激すぎるぜ。

 これらの甘い構想を打ち砕いたのは、編集長の実に短い一言だった。

 「先チャン、京大に行こ」

 き、きょうだい。僕はのけぞった。あの、菊田とかいう強い兄チャンがいる京都大学に行って、またしても10分切れ負けをやれ、というのである。

(以下略)

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5九の駒を取るときが一番いいポジションなのだろうか。

たしかに、5九なら真正面ということにはなるが。

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「こらっ、このシロブタッ、こんな玉も詰められないのか、このノータリン、御主人様の・・・」は大傑作だ。

しかし、これは男性(S)が女性(M)に使う言葉となっている。

女性(S)が男性(M)に言うとしたらどうなるだろう。各種のサイトを参考にした結果、次のような展開になりそうだ。

「この、ブタ。こんな玉も詰められないの?ブタが人間の言葉を使うんじゃないよ。詰ませたらご褒美をあげようね。もっといい声で鳴きな」

これで、詰将棋がもっと好きになる人と、もっと嫌いになる人に大きく二分されるのではないか。

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「郷田、一晩ホストに挑戦」も非常に喜ばれそうだが、この企画は採用されず、翌年から「先チャンにおまかせ」の後継企画として「〔全国縦断〕郷田王位がゆく」が開始されることになる。

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それにしても、郷田真隆九段と先崎学八段の友情。

一昨年の棋王戦で郷田九段が棋王を奪取した夜、郷田棋王と先崎八段は二人で朝まで飲んでいる。郷田棋王が酒の席で涙したとして知られる夜。

1992年、郷田王位誕生の時も、王位獲得のその日ではないにしても郷田王位と先崎五段は朝まで二人で飲んだことだろう。

20年以上経っても変わらぬ二人の友情、本当にいいものだと思う。